「訳ありのアパート」 投稿者:マシンガンジョー

「このアパートちょっとあまりおすすめしません」

安い物件を探していた早織さんには丁度良かった。
すぐに契約をして、住みはじめたという。

地元から上京してきてまだ何も知らなかったんですよね。
でも、住みはじめてしばらくしてからは、何もない。

ただ2ヶ月、3ヶ月を過ぎると
気づいたのだが、三階建てのアパートの三階には自分しか住居者がいないことに気づいた。
他の部屋は空いている。

ただし、いつの間にか家族が越してきたのか廊下で誰かとすれ違うことが頻繁にあった。
一人じゃない。そんな安心感に包まれていると、
やがていつの間にか引っ越してしまったのか、
三階にはまた再び自分だけしか住居者がいなくなった。

伽藍とした廊下に、上履きがひとつ落ちている。
拾うと、一階のベランダから馴染みのおばさんが顔を出して、
「おはよう」
と、元気に挨拶をしてくれた。

丁度良いので、三階の住人はいつ越したのかを聞いた。
すると、怪訝そうな顔で、
「三階にはここ半年くらい誰も越してきてないよ」 
そう言われてしまった。

だが、早織さんは半年の間、
何人もの人々の姿を三階で目撃している。

不動産屋に言うと、
「黙っててよもう少し値を下げるから」と交渉されたが、
引っ越しを決意していたので、部屋の鍵を返し故郷に帰った。

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