暑い…太陽が照らす砂浜の下。
各々、夏を満喫するために海を楽しんでいた。
そして、砂浜に立つ一つのパラソルの下で1人水平線を眺める男がいた。
『海は良い…綺麗だし空の色をそのまま写していて神秘を感じる。』
冷えたラムネを飲みながら1人満喫している彼は…母方の実家であるこの土地にきたのであった。
「あっ!危ないっ!茂兄ぃ!」
『ん?』
声がした方を向くと…ボールが飛んできてパラソルに当たって。
そのまま、パラソルの下敷きになった。
『……茲音。』
のそっとパラソルを退けて立ち上がった。
『茲音…ここじゃなく、あっちの空いてる所でやりなさいって言っただろ?』
「テヘっ!ごめんね?じゃあ、茲音戻るから~。」
すっと、戻ろうとした。
『話終わって無いぞぉっ!』
「ふぇ~謝ったじゃん!」
彼は逃げる彼女を暑い日差しの下で追いかけた。
彼の名は、鈴森 朔茂(すずもり さくしげ)で追い掛けられてるのは妹の茲音(ここね)。
妹って言っても、血は繋がってない。
彼らが幼い時に両親が再婚をし、その時から兄妹なのだ。
「あっ!お姉ちゃん遅い…って何で茂兄ぃに追われてるのぉっ!」
この驚いているのは、二人の末妹の夏海(なつみ)である。
両親の間に産まれた子で、中学生になったいまでも二人に甘えてくる。
なので、兄妹揃って楽しく過ごしていた。
三人は、クタクタになりながらも海沿いの道をゆっくりと歩いていた。
『もう…茲音は、気を付けろよ…。』
「えへへ~ごめんね?茂兄ぃ。」
茲音は、頭をわしゃわしゃさせながら反省しているようだった。
「そうだよ~お姉ちゃん!」
夏海は、屋台で買ったイカ焼きを食べていた。
『夏海~ちゃっかりイカ焼き食べてるけど夜は縁日に行くんだからな?』
「えへへ~大丈夫だよ、茂兄ぃ。」
ムシャムシャとイカ焼きを頬張る夏海。
「(いいなぁ~私もあのイカ焼き食べたかったなぁ~)」
茲音は、罰としてイカ焼きをお預けされていた。
そして、日が暮れて…町にある高台の神社には灯りが灯され賑やかになった。
「ふわぁ~凄いぃっ!茂兄ぃ見て見てぇこの綿アメ500円しないよ!やっぱり地元の綿アメ800円はボッタクリだよ!」
夏海が、失礼な事を言いながら祭の屋台に興味深々だった。
「わぁっ!お面だよ…コレMrチクワマンだよ!凄い!チクワ感が出ていて1000円だよ…茂兄ぃ欲しいなー。」
朔茂は、寄って行ってニッコリと笑顔で夏海を見た。
『駄目だ。自分のお小遣いで買いなさい。』
「ちぇ~わかったよ。」
「ふふ茂兄ぃは夏海ちゃんには、まだ甘いと思ってたよ?」
茲音は、ニヤニヤと茂兄ぃを見る。
『甘やかし過ぎは、良くないからな。』
「じゃあ、私は型抜きやってるもん!」
夏海は、近くの型抜きの屋台に並び始めた。
『じゃあ、たこ焼き買って夏海の型抜きでも見学するか?』
「茂兄ぃ……。」
『なんだ、茲音?』
「手……繋いで良いかな?」
茲音は、手を少し上げて朔茂に差し出した。
『……何言ってんだ?ほら、行くぞ。』
と言いつつ、茲音の手を握った。
茲音は、少し赤面しクスっと笑った。
「はい!いらっしゃい!」
たこ焼き屋には、朔茂と年が近い青年二人が切り盛りしていた。
『すいません!たこ焼き1つ下さい。』
「一つですか、わかりました少しお待ち下さいね!」
髪がツンツンしている青年はたこ焼きを凄く手際よく焼いていた。
もう1人の長身の青年は、素早い包丁捌きで蛸を切り刻んでいた。
「お兄さん?もしかして、昼間砂浜で走ってた?」
青年は、たこ焼きを焼きながら話し掛けた。
『なっ!いや、お恥ずかしいところを。』
朔茂は、少し照れた。
「へへ~羨ましい限りだよ!女の子と仲良くしているなんてさ!手も繋いじゃって!」
朔茂と茲音は、顔を合わせお互い赤くなっていた。
「良いね~その先も仲良くしなよ!?」
「おいっ、クロ!お客さん滅茶苦茶来てるんだから、たこ焼き焼いてくれ。」
背が高い青年に注意される、クロと言う青年。
「悪いなぁ、ユウヤ?はい!焼きたてだよ!お待ち!」
すると小声でクロは、何か言ってきた。
「(少しサービスしといたから、後1人大事な子がいるんだろ?)」
クロは、ニヤリと笑い。
『あ…あぁ、ありがとう?』
「ありがとうございました!」
「じゃあ、またのご来店を!」
朔茂と茲音は、たこ焼き屋を後にした。
「そいや、クロさ…俺がパセリ嫌いなの知っていて切らしてる?というか、たこ焼きはパセリじゃなくて青海苔だろ?」
「……え?そうなの?」
彼らの間に少しの沈黙があった。
『おい?夏海…型抜きは、どうだ?』
朔茂が不意に型抜きに集中していた夏海に話し掛けた。
「わぁっ!……集中してたのにぃ!」
どうやら、今ので割れてしまったらしい。
「あらあら、綺麗に出来てたのにね?」
茲音は、夏海をなだめる。
「じゃあ、夏海たこ焼きを茂兄ぃと食べていてね?お姉ちゃんが、リベンジしてあげるから!」
「え?」
すると、茲音は代金を支払い型抜きを渡された。
「ふふ、孔雀ね?」
それを手慣れたように、サクサクと彫っていく。
『いやぁ~やっぱり茲音は、器用だな?』
気がつくと、綺麗に彫られた孔雀が出来ていたのだった。
屋台の人も、完璧さに商品を渋々渡した。
「見て見てぇ~茂兄ぃ!可愛いでしょ?夏海には、コレをあげる!」
茲音は、貰った商品に入っていた白いリボンのヘアピンを夏海に付けた。
「わぁ~ありがとう、お姉ちゃん!お姉ちゃんの雀のペンダントも似合ってるよ!」
夏海は、たこ焼きと茲音のリベンジによりすっかり機嫌が直ったようだ。
『じゃあ、そろそろ帰ろっか?』
「うん、わかったよ。」
その帰り道に、海沿いの道を歩きながら帰った。
「でね?でね?私ね~。」
茲音と夏海は、あの後にリンゴ飴を買って食べながら歩いていた。
『全く…暗いんだから、気を付けろよ。』
ふと海を見ると、波止場にある灯台が空を切り裂くように光を放っていた。
『明るいなぁ…。』
朔茂が、灯台の光に見とれると先程まで楽しく話していた夏海が静かになり海の方を向いた。
「暗いねぇ?あれ?あれ何だろう?茂兄ぃ?」
『え?』
「なんか、ユラユラしているよ?」
朔茂は、指を指す方を向いたが波止場に波が打ち付けられているだけだった。
『どうした?夏海…眠いのか?』
「ふふ、疲れて見間違えたんだよ?」
朔茂と茲音は、夏海を心配した。
「それなら…良いんだけど。」
二人は、海を未だに見つめる夏海の手を握り…歩き始めた。
「(何だったんだろうか?) 」
そして、三人は祖父母の家に戻り…風呂を入った後に朔茂は縁側で涼んでいた。
冷蔵庫から、冷えたラムネを飲みながら波の音を聴いていた。
そこに、茲音がやって来た。
「お隣良い?茂兄ぃ?」
ニカッと笑顔で、同じく冷えたラムネを開けて飲んだ。
「ぷはぁ~美味しいね?」
『夏海は寝たのか?』
「うん、さっきトイレ行ってから寝るって言ってたよ!」
『そうか…。』
朔茂は、少し穏やかな顔をしていた。
「し、茂兄ぃさ……。」
茲音は、何時もと違う雰囲気で聞いてきた。
「彼女…もう、いるの?」
朔茂は、急な質問にラムネを吹き出した。
『な、何だ急に!まぁ…居ないがな。』
茲音は、その朔茂を見て笑った。
「アハハハ~ごめんね?私達…もう18だしさ、茂兄ぃは何かアクションしているのかなっ?と思ってさ?」
『まぁ…その内にはな?』
急に…ガラガラと引戸が開く音がした。
「えっ!?何?」
『玄関か?誰か開けたのか?』
朔茂は、気になり玄関に向かった。
「待ってよ!茂兄ぃ!」
見ると、玄関は開いていた。
すると、玄関に祖父母もやって来た。
「朔茂、誰か来たのか?」
『いや、俺が見に来た時には誰も居なかった。』
朔茂は、何の気無しに辺りを見渡すと。
『……無い。』
よく見ると、靴の数が足りない。
『夏海の靴が無い…。』
茲音は、急いで夏海が寝る部屋を見に行った。
勢いよく戸を開けた。
「い…いない!」
『いったい…何処に。まさか、さっきのが気になって海に。』
祖父は、驚いた顔をした。
「朔茂…夏海は海で、何を気になったんだ?」
祖父は、少し汗を滴ながら朔茂に聞いてきた。
『縁日行った帰りに、俺は灯台の光を見ながら海沿いを歩いていたら夏海が急に波止場近くの海がユラユラしてるって…。』
その事を聞いた瞬間…祖父は目玉が飛び出る勢いで言った。
「いかんっ!それは…それは……見てはいけないものだっ!朔茂っ!説明は後だ!急いで波止場に行けっ!手遅れになるぞっ!」
普段温厚な祖父からは、思えない程だったので…それだけ夏海の身に危険が迫ってることを物語っている。
朔茂は、聞いたら直ぐにスニーカーを履いて飛び出した。
「あぁっ!私も行くよぉっ!」
茲音も、飛び出した。
その様子を見た、祖父は泣いていた。
「ワシが…早く言っておけば…ワシのせいだ。そういえば朔茂は、灯台の話を…。」
そして、波止場を目指す二人。
『夏海ぃっ!』
「夏海~!」
静かに、星空の下で照らされているが暗い海沿いの道。
必死に走るが、夏海は見当たら無い。
「茂兄ぃ!あそこ!夏海じゃない?」
茲音が、指を指す先…波止場の灯台の下に夏海はいた。
『なぁっ!夏海!』
朔茂は、叫んだ!
だが、それと同時に…夏海は暗い深淵の海に身を投げた。
その時、夏海の表情が見えた。
その瞳は、後悔を現しているようだった。
ジャブゥンっ!と波の中で、まるで池に石を投げ入れたかのような音がした。
「な、夏海ぃっ!」
『茲音っ!誰か、呼んできてくれ!』
「え!?茂兄ぃ!でも夏海を早く助けなきゃ!」
と言った瞬間…朔茂は波止場より暗い深淵へ飛んでいた。
「茂兄ぃっ!」
ザバァッン!
『ぷはぁっ!ハァ…ハァハァ夏海っ!!』
ザブザブと探すと…夏海を見つけた!
『なっ夏海っ!』
呼吸をするのもままら無い程、溺れていた夏海を抱き抱えた朔茂。
『大丈夫だ…後もう少しだからな。』
波止場まで、もう少しだった。
「おっ!あそこか!?」
「はい!お願いです!兄と妹を!」
「ユウヤ!俺は、浮き輪取ってくるから頼んだぞぉっ!」
それは、縁日のたこ焼き屋の青年二人だった!
「おいっ!あんたっ!手を出せっ!」
だが…その時、朔茂は自身の脚に違和感を感じた。
『ぷっ…うっくわぁ、いや妹を頼む…早くしてくれぇっ!』
朔茂は、滑りながらも波止場に付いた貝類を掴みながら懇願した。
「……くっ、任されたぁっ!」
青年は、夏海を引き上げた。
夏海は、中学生とは言え1人で持ち上げられたのは青年の怪力によるものだ。
そして、茲音が引き上げた夏海を寝かせ水を吐かせた。
「かぁっかほけほ…。」
口より、黒いものが吐き出された。
「(こ、これは?)」
『(夏海…助かって、良かった……。)』
安心したのも束の間…朔茂の脚が海底に向けて引き摺り込まれていく。
『あっ!ああ、ぷっくはぁ!』
必死に抵抗する朔茂。
水面より耳が下に浸かった際に、声が聞こえてきた。
「見捨てないで…波に浚われた私を見捨てないで…あなたは手を差し出してくれればいいから…ミステナイデミステナイデワタシヲミステナイデミステナイデワタシヲミステナイデミステナイデミステナイデっ!」
その声は、海水より耳に入ってきて…朔茂を苦しめる。
最初は脚だったが、徐々に掴んでくるヶ所がまるで朔茂を登るように伝わっていく。
『うっ、はぁわぁっ!ぷっ……。』
朔茂は、水面の下に沈んだ!
「おいっ!お兄さんっ!ちっ!クロの奴まだかよ!? 」
と一瞬、青年が一瞬眼を離した。
どんどん、海底に引き摺り困れる朔茂。
『(あっ!ぷぐうわぁっ!…駄目だ、俺もう死ぬだろう…。)』
その顔を見てニタニタする人ならざるものは、朔茂に追い討ちをかけるように首を締めた。
『(がぁっはぁ……すまない…茲音、夏海。)』
ザブゥンっ!
水の中でも、飛び込んだ音が聞こえてきた。
『(もう…俺は。)』
海の中から、見えた灯台の光に思わず手を伸ばした。
『(はは……届くわけ無いか!?)』
そして、人ならざるものは薄れいでいく朔茂を見た。
「アナタハミステナイミステナイカラカワイソウニィ~。」
それは、ニンマリと青白い顔を朔茂に見せつけた。
「エイエンニアナタハクラヤミノナカ…。」
朔茂が伸ばした手も意識が薄れた為に、下がって行こうとした。
だがっ!
その手は、掴まれた!
「(諦めないでぇっ!茂兄ぃ!)」
その手は、茲音だった。
「ナッコムスメガァッ!」
人ならざるものは、発狂し掴んでいた朔茂を離した。
茲音は、その隙に朔茂を掴み海面に出た。
「ぷはぁっ!」
水の底より、人ならざるものもユラユラとゆっくりと追ってきた。
「は、早く!茂兄ぃを引き上げて!」
青年達は、浮き輪を茲音に投げた。
「わかった!クロ引き上げるぞ!」
「おうっ!よいしょっとっ!」
二人で、やっと持ち上がったが朔茂は疲弊仕切っていた。
『…茲音は……茲音を……。』
朔茂は、意識を薄れながらも茲音の名前を呼んだ。
「茲音ちゃん!浮き輪に掴んでな!引き上げるからよ!」
「うん!お願っ……。」
その光景は、そこに居た者達の瞳に焼き付くように見えた。
浮き輪に掴んだ、茲音にまるで鉄砲水のような波が茲音を襲い。
そのまま、茲音は波止場の媚びりついた貝に頭を激突し…暗い水面を一瞬赤く染めた。
そして、暗い海は嘲笑うかのように直ぐに彼女は波に呑まれてしまった。
『は…離せ、茲音が…茲音を…俺は!』
「む、無理だ!あんたまで、死ぬぞ!」
『お願いだから…離してくれ……お願いだから。』
波は、静かになったが海面には茲音の姿は見つからなかった。
その後、地元の漁師達が茲音の捜索を手伝ってくれて…無事見つかった。
だが…それは、変わり果てた姿だった。
顔は、貝に切り裂かれたのだろう…ズタズタになり表情は苦しんだ表情をして息をしていなかった。
朔茂は、冷たくなった茲音の手を握った。
『ごめん…俺が……俺がもっとしっかりしていれば…。』
泣きわめく朔茂。
「お姉ちゃん…夏海のせいで、ごめんなさい…ごめんなさい、うわぁぁぁ~。」
泣き叫ぶ夏海。
その時、海から声が聞こえてきた。
「ミステナイデ…ミステナイデ…。」
聞いたことがある声だった。
『茲音なのか?』
この時、夏海も声がする方を向いた。
だが、そこに居たのは人ならざるものだった。
周りの皆は、朔茂が海に入って行くのに気づいてない。
「茂兄ぃっ!それは、茲音お姉ちゃんじゃないよ!戻ってぇっ!」
だが、夏海の心の叫びも朔茂には届かない。
「ミステナイデ…ミステナイデ…茂兄ぃ。」
人ならざる者は、ニタニタと笑みを浮かべ朔茂を黄泉へと手招きしている。
『ごめんな…茲音……守ってやれなくて。』
朔茂は、どんどん海の中へ入水していく。
夏海は、朔茂を止めようとするが身体が動かない。
「茂兄ぃ…私を1人にしないでよ!」
そして、人ならざる者の目の前まで入水した時っ!
「戻って来て!茂兄ぃっ!」
正面からでは無く、背後から聞こえた。
『……茲音?』
朔茂は、振り返る。
そこには、息を吹き替えした茲音の姿があったのだ!
「ミステナイデ……ワタシヲミステナイデミステナイデってぇっ!」
ちょうど、朝陽が海を照らして海面の色が変わった。
「カナラズカナラズ…オマエモっ!」
人ならざるものは、朝陽により消え去った。
朔茂は、身体の自由が戻り浜辺に戻った。
『お帰り、茂兄ぃ。』
「馬鹿野郎…それは、俺の台詞だ。」
「お姉ちゃん!良かったっ!良かったっ!」
夏海は、泣き叫んだ。
そして、茲音は入院する事になった。
『こんなに、ボロボロにすまない…。』
茲音は、顔に大城な傷ができ包帯を巻いていた。
「もう、茂兄ぃもう止めてよ!だけど、お嫁さんには無理かな。」
『その時は、俺が守ってやるからずっとな!』
少し恥ずかしそうに茂兄ぃは、言った。
「ぷっアハハハ!その時は、お願いね?」
『わ、笑うなよ!』
「てへっ!?」
そして、また夜…また再びあの海沿いを通る者達が居た。
「あれ?今彼処で、何かユラユラと動いて無かった?」
だが、相変わらず波止場に波が寄せて灯台が辺りを照らしてるのみ。
「え?どこどこ?どこ灯台が光ってるくらいじゃん?」
「え?灯台?」
後から、祖父からの聞いた。
彼処の海辺では、夜に生きている者を海に引きずり込む人ならざる者がいるらしく存在を認知した者を海に引きずり込むらしい。
既に光らない灯台の光と陽炎のようにユラユラと揺らぐ波が誘うらしい。
己を認知した人間のみを……。
コレからも、また。
「ミステナイデ…ワタシヲミステナイデ。」