熱される油がパチパチとなる。
そこから、シュワシュワと泡がたつ。
『ふん、ふぅ~ん。』
鼻唄を奏でながら、料理をしている少女が居た。
『ほいっとぉ。』
熱い鍋から、何かを取り出す。
それを油切り用の網の上に乗せた。
『わぁ~良く出来たぁ~ふふ、柚佳の唐揚げ!!』
彼女の名前は、千田 柚佳(ちだ ゆずか)。
今は、ちょうど夕暮れ時なので晩御飯の晩御飯の支度をしていた。
『お兄ちゃん~唐揚げ大好きだからなぁ。 』
実は、彼女には大学に通う兄がいる。
最近久しぶりに電話で、話した際に何かあったらしく気分が落ち込んでいた。
そこで、兄を励ますために単身で来たのだが…タイミング悪く兄は三日程家を開けるとの事で兄には秘密で兄の家に住んでいた。
『まぁ~いまじゃ、お隣さんとも仲良くなっちゃったしね?』
そして、今日の夜に兄が帰ってくるので疲れた兄を大好きな唐揚げで喜んでもらおうと計画していた。
『長かったなぁ…3日間は。まぁ、今日の為への準備に使えたからヨシとします。』
彼女は、カチューシャにて紙を上げてはいたが唐揚げを揚げていたので額は汗だくになっていた。
『あぁ~熱い熱い、桃水飲もう。』
水分補給のために、置いておいた桃水を小さな口でゴクゴクと飲んだ。
『ぷふぅ…なんか、早く帰って来ないかな?』
もう、唐揚げは揚げ終わり油切りが終わればもう一工夫の段取りに入れるのだが…また時間を開けたい。
『じゃあ…お風呂掃除しとこ~。』
柚佳は、お風呂の掃除を丹念して凄く綺麗になったのを見て自分で目を輝かせていた。
お風呂を指で触るとキュッキュッと鳴る。
『わぁ~いいっ!これで、更に喜んで貰えるよ~。』
少し気分をウキウキさせながら、台所に戻ろうとすると妄想を暴走し始めた。
『お兄ちゃん~ご飯にする~お風呂にする~それとも……きゃあっ!何てお兄ちゃんに言えるわけ無いじゃない!』
と恥ずかしさで、顔を隠すとドアの鍵がガチャリと開いてドアが開かれて…。
「え?柚佳?」
兄が帰って来たのだった。
『え……えと?お兄ちゃん?晩御飯にする?お風呂にする?それとも……。』
「荷物置いてくるわ。」
何事も無かったかのように、兄はスタスタと奥に行った。
『…わ、わかった。』
柚佳は、台所に戻り揚げていた唐揚げをザクザクと切り分けて生野菜と一緒にお皿に盛り特製タレをかけたもの。
もうひとつは、一口サイズに切り分けて揚げていたものを盛ったもの。
『一応~マヨネーズは、別皿に。』
そして、荷物を置いてきた兄が台所に来て椅子に座った。
「はぁ~疲れたよ。おっ!?今日は唐揚げと…油淋鶏かぁ!凄いなぁ柚佳か!」
『えへへ、お兄ちゃん唐揚げ好きでしょ?だから頑張っちゃった?』
兄が瞳をキラキラとさせていた。
『あぁ~我慢ならん。柚佳先に食べるぞ!いただきます!』
柚佳は、冷えたお茶を注いでいたが兄の姿を見て笑顔で言った。
「どうぞ、召し上がれ。」
バクバクモシャモシャと、美味しそうに唐揚げを食べる兄。
『(ふふ、よっぽど好きなんだね。)』
そんな兄が一旦箸を止めた。
「あれ?柚佳は、食べないのか?」
彼女は、自分のお腹を擦りながら言った。
『おやつに、金平糖食べ過ぎちゃって夕飯食べたら太っちゃうから明日食べるよ?』
柚佳は、ニコって言った。
「へぇー気にしてんだ、そう言うこと。」
兄は、止めていた箸を再び動かして唐揚げを口に運ぶ。
『気にするよ!お兄ちゃんには、女の子の事がわからないんだよ?』
笑顔では、あったが少しピリピリしているようで…冷えたお茶を少し強めに圧をかけて置いた。
『はい…お茶。』
だが、兄は唐揚げに夢中だ。
「をっ!ふぁんくふっ!」
『(口に食べ物が、入っているのに…言わなくてもいいのに。)』
そんな、兄を見て先程から比べると機嫌が良くなっていた。
『桃子も、柚佳も美味しい唐揚げ作ってくれるから…幸せだよ。』
『桃子…って、お兄ちゃんの彼女さん?』
少し表情に焦りをだし始めた柚佳。
「いや、彼女…じゃあ無いんだけどさぁ。」
「前、課題が終わらないって泣いていたのを俺がさ教えて手伝ったら…御礼に可愛い少女アニメのハンカチに包んで唐揚げの入ったお弁当を作って持って来てくれてさ。」
「それが、凄くてさ!ニンニクが効いていて中々良かったんだけど…同じサークルの友達にニンニク臭いって言われちゃってさアハハハ。」
「それから、リベンジって名目で唐揚げ弁当を作ってきてくれるんだよね?」
兄は、柚佳が作った唐揚げを食べながら桃子の話をした。
『で、お兄ちゃん的には桃子さんはどうなの?』
「どうって…、まぁ前よりは唐揚げ上手くなったかなって思うよ。」
『……そう。』
「だけど、俺さぁ。将来、一緒になる人の条件としてあげるとしたら唐揚げを作ってくれる人かな?」
兄は、食べ終わりお茶を飲む。
「ぷはぁ~美味しかった。御馳走様でした、柚佳。ありがとう!」
『お兄ちゃんが、喜んでくれたなら柚佳嬉しいよ!』
「じゃあ、お風呂汲んで入ろうかな?」
『お風呂は、洗ってあるから汲むだけだよ!』
「おっ!?サンキューっ!」
兄は、足早に浴室に向かった。
柚佳は兄が食べた、皿を流しに入れて水で冷やし始めた。
『せめて、流しには入れて欲しかったな。』
そして、暫くして…ゆっくりと湯に入った兄が出て来て冷蔵庫よりピッチャーに入ったお茶をコップに注いで飲んだ。
「風呂上がりにキンキンな、お茶飲むの良いね!最高だよ!」
柚佳は、洗い物を終えて洗濯物を畳んでいた。
『そう?なら、良かった。』
柚佳にしては、少し反応が冷めていた。
「どうした、柚佳?」
兄は、急に先程とは変わり柚佳を心配し始めた。
『思ったより、元気そうで良かったよ。』
パンツを三角織りにして、纏めながら言って来た。
『いや、電話越しで元気無さそうだったから…あんなに明るいお兄ちゃんが暗かったからさ。』
「……心配させて、悪かったな。実はさ、大学の友達がさ…音信不通になっていてさ。アイツが住んでいたアパートに行ったら荷物置いて居なくなったって言われてさ。」
「すげーいい奴でさ、叶うことなら馬鹿みたいな話とかをしたいよ。」
少し兄は、泣いていた。
「グスっ…悪いな、柚佳に恥ずかしいところ見せちまったな?」
『大丈夫…笑わないから私。』
柚佳は、チョキチョキと布を切りながら黙々と兄の話を聞いていた。
「実はさ、さっきさ唐揚げを作ってくれてる桃子の話をしただろ?俺が、落ち込んでいる時にさぁ…それが支えになったんだ。」
柚佳は、切り分けた布を針で縫い始めた。
『へぇ~そうなんだ。』
「さっきさ、俺が一緒になりたいのは唐揚げを作ってくれる人って言っただろ?だからかな?桃子と、また会いたいんだよね。」
柚佳は、ただ黙り布をチクチクと縫い合わせる。
「3日前に、実はさ桃子と出掛ける予定でだったんだが…連絡つかなくなってさ。」
「今度は、桃子が…俺の前から消えてしまったって絶望していたんだよ。」
「そして家のドアを開けたら…柚佳、お前が居たことで救われたよ。」
『そう?』
「唐揚げも、美味しかったし本当にありがとう。料理が、出来なかったのに上手になったよ…柚佳の料理に心も胃袋も掴まれるよ!」
布を縫い終わり、端の糸を糸切り鋏で切る。
『ふふ、ありがとう…お兄ちゃん。』
その布をピラっと広げる。
「あれ?」
その布の一部に、見たことあるイラストがあった布の一部が桃子のお弁当を包んでいた少女アニメのものに。
「柚佳それ、どうしたんだ?」
『あっこれ?いや要らない布を縫い合わせて袋にしようかな?って思ってさ。袋ってあると便利じゃない?』
柚佳は、穢れない笑顔で答えた。
「誤魔化すな!…どうしたんだ?それ?」
『弁当を包むのに、使われてたよ。』
「……誰の弁当のだ?」
兄は、少し静かめに言った。
「答えてくれ…柚佳。」
それを聞いて、柚佳は立ち上がり兄の真裏に周り…まるで甘えるかのように肩に腕を回した。
「柚佳っ!?真面目に答えっ!」
柚佳は、はぁ……と息を吐き口を兄の耳元に寄せた。
『お兄ちゃんが、美味しそうに食べていた雌豚の1人だよ…ふふ。』
「え?は?何言ってんだ柚佳?」
少し兄は、焦り始めていた。
「お…俺が食べていた?何を言っているんだ?おい、柚佳?」
柚佳は、ニヤリと笑った。
『今、私…言ったよね?雌豚の1人だと?因みに、私はお前の妹じゃない。』
と言うと、柚佳は自分の顔の皮を剥ぎ取りブチブチと音がなり…柚佳と同じ年頃の少々が顔を露にした。
『ケケケ……。』
「だ……誰だ?お、お前は?」
兄…いや、怜は震えながら聞いた。
『誰でも良いだろ?それより…聞きたいなぁ。』
その少女が、怜の耳朶をペロリと舐め生温かい吐息が頬に伝わる。
『どんな気持ち?一緒になりたい唐揚げを作ってくれる思い人と大事な妹を美味しそうに食べた感想はさニヒヒヒヒっ!』
下品な笑い声が、鼓膜を砕かれるかのように聞こえる。
「そ、そんな…俺が食べていたのは…。」
怜は、絶望し血が抜かれたかのようにダランと肩から力が抜けた。
『いやぁ~可愛かったよ?最後まで、君の名前を叫んでいたよ。少しずつさぁ、肉を削いで血を抜いていたからね⁉️あと、美味しかったよ?唐揚げ弁当!彼女の声をBGMに頂くのは最高だった。』
「桃子…桃子……。」
『それでね?唐揚げを作りたくなっちゃってね、丁寧に血抜きして作ろうとしたら?君の妹が、来たわけ?』
『いきなり鍵開けられて入られたから隠しようが無くてバレたから…手に掛けた。』
『鳥の首を掴むようにさぁ、首を締めたんたんだよ?そしたらさ、この子も君の名前をか細く言っていたよアハハハ!』
『二人の女子に、好意を持たれる君が気になってさぁ…だから君が大好きな唐揚げにしたんだ? 』
『そして…二人の調理したの実はさ風呂何だよね?血痕とか肉片とか無かったし私っ て掃除丁寧でしょ?でも、二人の血と肉片が積もっていた風呂も快適だったクフフフ?』
『私も摘まみ食いしたけど、美味しかったもんね?あの唐揚げ達!摘まみ食いは、唐揚げする上で許してねヒヒヒ。』
こちらの顔を覗くように、ニタニタと笑う少女。
「俺は……俺はぁっっ!」
我を失い狂い始めた怜。
見境無く暴れようとしたが、少女は押さえつけるわけでは無く……。
『じゃあ、そろそろ……。』
『いただきます。』
すると、ボリッと骨を噛み砕く音が聞こえてムシャボリボリと固いスナック菓子を食べる音が聞こえた。
翌朝……。
冷蔵庫に入れていた、ラップを掛けた皿をレンジにいれて温めた後に野菜を盛った皿に移す。
それは、昨日の唐揚げとは別な片栗粉で揚げたものだった。
『ふ~ん、私はこっちも好き何ですよね?』
『じゃあ、今回も…。』
近頃、行方不明事件が増えている。
原因は、不明だが最近になって現れた共通点は…。
『美味しかった~。』
何故か…食べかすが少しある皿がテーブルに残っていて。
それは、どれも唐揚げの類いであること。
『御馳走様でした。』
もしかしたら、唐揚げを作りにアナタの日常に入り混んでるかもしれない。