千日デパート火災を知っているだろうか。
これは大阪府大阪市南区(現・中央区)千日前にあった千日デパートで起きた火災のことで、死者118人・負傷者81人という、大惨事だった。
この火災が発生したのは1972年5月13日。今では跡地には家電店が建っている。
その前に、1984年に商業施設が開業した。2000年に閉館することとなったのだが、閉館直前、俺は高校生で、怖いもの知らずだった。
商業施設では、さまざまな怪奇現象が起きると評判だったから、俺は面白がって行くことにしたのだ。
なんとなく暗い雰囲気がする建物だな、とは思った。だが、評判になっているように、霊の声が聞こえたり、ましてや霊が降ってくるなんていうことはなかった。
千日デパート火災では、窓から飛び降りた人が複数出ていたので、商業施設や、その近辺では、霊が降ってくると噂になっていたのだ。
商業施設を、一通りぐるっと回ってはみたものの、何も起きない。つまらないなと思って、帰ろうとしたが、どうしてもトイレに行きたくなった。しかも大のほうだ。
帰る前のついでにと、何階だったかは忘れたが、個室のトイレに入った。
すると、俺しかトイレにいる人間はいないはずだったのに、ドンドン、とトイレのドアが叩かれた。
「入ってます」
そう言っても、ドンドン、とさらに相手はドアを叩いてくる。
頭のおかしいやつなんだろうか? ……いや、もしかしたら、これこそが怪奇現象かもしれない。俺は、都市伝説でもよくあるような、こんな質問をしてみた。
「そちらには、何人いるんですか?」
少し間があいたあと、ものすごい数、ドアが叩かれた。それこそ、人間には叩けないほどの数だ。
これは絶対に怪奇現象だと興奮した俺は、おもいきって、こんな質問をしてみた。
「俺の寿命は、あと何日ですか?」
どれだけ待っても、音は一回も聞こえてこなかった。
そのあと、俺は上京し、家庭も持って、普通に生きている。結局、あの体験がなんだったのかは、よくわからない。
ただ確かなことは、家電店のトイレでも、ドアを激しく叩かれるという怪奇現象が起きるという噂があるということだけだ。