死者に会えるエレベーター 投稿者:Mari

私が小さいころに住んでいたとある地域には、Nという有名な心霊スポットのビルがあります。

 心霊スポットといっても、廃墟ではありません。何十階とあって、いわゆる高層ビルなのですが、入居者が全然いないんです。
 おそらく、常に全体の半分は空き部屋なのではないでしょうか。
 それなのに、取り壊されないのが謎でした。
 取り壊そうとすると、工事の人や、取り壊しを命じた人に不幸が訪れる、なんていう定番の噂もありましたが……。

 なにせ、噂ではなく、Nでは強盗や自殺、最悪なものでは、殺人事件という、とんでもないことが発生していたんです。
 私はNに、父親が仕事の関係で部屋を借りていたので、何度か足を運んだのですが、なんだか異様な空気というか、いるだけで気持ちが悪くなる、不気味なビル、という印象でした。
 もうNには行きたくないと、毎回思ったことを覚えています。

 そんなNには、こんな噂もありました。人の生き死にに関わる出来事が多いせいからでしょうか。深夜三時に、エレベーターのボタンをでたらめに押すと、自動的に止まり、ドアが開くと、亡くなった中で一番会いたい人がいる、というものです。
 明らかに子どもだましの噂ですが、それに飛び付いた人がいました。父の友人のSさんです。
 Sさんは、幼い娘さんを事故で喪ってしまい、もう、どんな形でもいいから、娘さんと再会したいと強く願っていたのだとか。

 父から聞いた話によると、Sさんは、迷わず深夜の三時にNのエレベーターに乗り、ボタンをでたらめに押したそうです。
 するとなんと、ぐちゃぐちゃの見た目で、誰だかはわからないけれど、かろうじて女の子だとわかる幽霊が出てきたとか。
 娘さんかと思い、狂喜したSさんですが、その幽霊の言葉で、心底がっかりすることとなりました。
「会いたかったよ、ママ!」
 Sさんは、見た目が中性的だからよく誤解されますが、男性です。幽霊とはいえ、娘さんが性別を間違えるわけがありません。
 Sさんが悔しさのあまり涙をこぼすと、自動的にまたエレベーターが動き出し、気が付けばNの外に出ていたんだとか。

 あくまでも父から又聞きで聞いた話なので、盛っているところはあるかもしれません。けれど、小さい私にとっては、とても怖い話でした。
 Nは、いまだに取り壊されずにその場所にあります。

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