これは私が20歳の頃に実際に体験した話です。
その日はやけに疲れていて、私はいつの間にか自分の部屋で眠ってしまっていました。
ふと、目が覚めると身体が動きません。
(金縛りだ…!)
生まれてはじめての体験に、少し心が踊りつつも、なんとも言えぬ恐怖を感じていました。
かろうじて動く目だけ動かして部屋の中に異変がないか確認していると、部屋の天井に異変を感じました。
豆電球でうっすらと明かりをつけていたはずのライトが勝手に消えているのです。
部屋の中が真っ暗なことに、ここで初めて気が付きました。
(電球が切れたかな?)
身体が動かず確かめることもできないので、そういうことにするしかありません。
そしてもう一つ、違和感があったのが天窓です。
そこからはいつも優しい月明かりが楽しめるのですが、その日は月明かりが一切入ってきていませんでした。
(どんなに天気が悪くても、うっすらと月明かりが入ってきていたのに…)
いつもと違う部屋の様子に、これは夢なのでは?という思いが頭をよぎります。
他におかしな箇所はないか目を動かすと、自分の身体の真上に黒い塊が浮かんでいることに気が付きました。
大きさは直径50cmほど、ほぼ正円に近い形をしています。
形よりも異様だったのがその黒の深さでした。
そこに本来あるはずの白い壁が、真っ黒な塊で見えなくなるくらい漆黒なのです。
暗い部屋の中でも、その黒さはさらに突出していました。
(この黒い塊はなんだろう?)
私はなぜか恐怖を感じることはなく、ただその黒い塊を見つめ続けていました。
すると突然、頭の中に祖父との思い出や祖父の葬式の様子が一気に浮かんできたのです。
(おじいちゃん、ごめんなさい…泣けなくて、ごめんなさい…!)
(会いたい、おじいちゃんに会いたい…!!)
頭の中に勝手に言葉が浮かび、涙が溢れてきました。
葬儀では出なかった涙が、今になって出てきたかのような泣きっぷりでした。
私は祖父が大好きだったあまりその死をうまく受け入れることができず、葬儀では涙が一滴も出なかったにも関わらず、今になってこんなに涙が溢れるなんて…。
懺悔にも似た独白が頭の中に溢れて止まらず、
そのまま気絶するかのように、私はまた眠りにつきました。
朝、目が覚めるとそこはいつもの部屋でした。
豆電球はついているし、天窓からは気持ちの良い朝日が降り注いでいます。
(アレは一体なんだったんだろう……?あ!そういえば…)
そこで初めて思い当たることがありました。
その日は、祖父の命日からちょうど49日目だったのです。
あの黒い塊は祖父の魂だったのでしょうか?
それとも、祖父になりすました何かだったのでしょうか…。
あれ以来、黒い塊を見ることはありませんでした。