小此木さんという男性に聞いた話。
おそらく、知らずに住んでいた。
あとで、この物件はそういう類いの物件だったんだと気づいたくらいでね、
よく、事故物件だと幽霊が出るのが、当たり前じゃないですか。
だけどね、僕の住んでいたアパートは、幽霊は出ない。
だけどね、妙な現象が度々起きる。
水道の水がまっすぐ流れてるのが途中でかくんと折れ曲がる。
いきなり押し入れや戸が、勝手に開いたり閉まったりする。
ポルターガイストじゃないですか?
そう言うと、違うと首を振る。
「そもそも私幽霊信じてないから違うんですよ」
起きている現象は、明らかに事故物件ならではの現象だが、
それを否定する。
否定しながら、説明する。
実は、そんな現象のひとつひとつは、自分が想像したものだと話す。
だから想像が現実になっただけで、事故物件とは一切関係ないんだと開き直ってしまう。
ただ、それを裏付けるように、過去その部屋で死人が出た、あるいは幽霊が出た話なんて微塵もない。
だから事故物件ではあっても心霊とは無縁なのだろう。
ただ、と最後に
「どうしても片付かないことがあるんだ」
と、言う。
小此木さんが、ひとつだけ想像が形にならなかったことがある。
「越す前の日の夜に出たんだ」
幽霊ですか?と私が聞くと、
やはり否定して、
「顔がどうしても別れた妻に似てるんだよ」
寝ていると、隣にぴったりと寄り添うように座る人物がいる。
「想像がまた形になった」
そう思ったが、女の顔を見た瞬間、がっかりする。
美人を想像したのに、いつもなぜか顔だけが妻の顔になる。
妻の顔をした何者かが寝ている自分を見ながら笑うんだという。
それって幽霊じゃないですか?と言うと、
「違うよ頭の中で作り出してる想像の産物だよ」
と一笑に伏すのだが、
「妻はまだ生きてるけどお互い納得して離婚したんだからね」
だが、小此木さんのお姉さん曰く、それは嘘で彼のDVが原因での離婚らしい。
今も引っ越すたびについてくる。
それを信じたくなくて頑なに彼は見えないふりをしているんだと思う。