俺の通っていた小学校の通学路には、三体のお地蔵さんが祀られていた。
変な感じはまったくしないし、むしろ、かわいらしいお地蔵さんだった。
だが、そのお地蔵さんに手を合わせると、とんでもなく不幸になるという伝承があった。
「あのお地蔵さんには、近寄らないようにしてくださいね。お参りしている最中に、事故にあって亡くなった人もいますから」
小学生になったばかりのときに、担任の先生にそう言われたものだから、俺たち生徒にとって、お地蔵さん=恐怖の対象、にすっかりなってしまった。
というわけで、大半の生徒はお地蔵さんを恐れ続けながら学校に通っていたんだが、小学五年生のときだったかな。おとなしい、仮に涼子っていう女子がいたんだが、突然、とんでもないことを言い出したんだ。
「私、あのお地蔵さんに手を合わせてくる」
もちろん皆、必死になって止めたけど、涼子はどうしてもやるって言って聞かない。
そして、実際に手を合わせたそうなんだ。涼子に不幸が訪れると、誰もが思ったよ。
ところが、涼子は幸せになったんだ。なんでも、涼子は母親に殴る蹴るの暴力や、ご飯を作ってもらえない、いわゆる虐待を受けていたんだと。
だから、これ以上に不幸になることはないと思って、やけになってお地蔵さんに手を合わせてみたらしい。
すると、母親は改心。それまでと打って変わって、やさしい母親になったとのことだった。
それでも、相変わらずほかの皆は、お地蔵さんのことを恐れていたよ。だって、涼子の幸せのなり方も、なんだかひねくれているじゃないか。
ただ、涼子は幸せなままで小学校を卒業したみたいで、卒業文集には、『私はお母さんのような、やさしい母親になることが夢です』って書いてあった。
俺は涼子とは中学校は違ったから、その後の涼子のことを知ったのは、二十歳を回ってからの、ニュースでだった。
子どもを虐待死させたシングルマザーとして、涼子が報道されていたんだよ。もう、地元の連中は大騒ぎ。やっぱり、お地蔵さんの伝承は、本物だったんだ、ってな。
思うに、涼子は、お地蔵さんに“不幸の後回し”をされてしまったんじゃないだろうか?
涼子が幸せな子ども時代を過ごせた代償に、大人になった涼子と、その子どもは不幸になる運命になってしまったんじゃないか……そんな気がしてならないんだ。
今では、小学校自体が廃校になった。お地蔵さんが、どうなったかは知らない。
……これが俺の鉄板の“怖い話”なんだが、あまりにも話ができすぎていて、なかなか信じてもらえないんだよな。
でも、すべて実際にあった話なんだ。まあ、涼子にお地蔵さんに手を合わせることを俺がけしかけたのと、涼子の子どもの父親が俺だということは、言わないで話しているんだけど、それぐらいの嘘はいいよな?