十階建ての、見た目はごく普通のマンションの話です。
数年前、六階に家族で住んでいた、当時、まだ小学校中学年の少年には、とある悪趣味な趣味があったそうなんです。
それによって、悲惨な事件が起きてしまいました。
その少年は両親が共働きで、学校から家に帰ると、どちらかが帰ってくるまでは一人きり。少年は友達がいなかったので、ゲームぐらいが唯一の楽しみだったとか。
でも、毎日ゲームをやっているうちに、少年は、それだけでは飽きてきてしまいました。
だから、なんとなく、ベランダから物を落とすことを趣味にしました。最初は小さなゴミのような物、次は何も入っていないペットボトル、というように、どんどん落とす物は大きくなっていきました。
少年の住むマンションの近くは人通りが少なかったので、誰にも目撃されることがなかったことから、少年の行動は悪化していきました。
そして、とうとう植木鉢を落とす、なんていうとんでもない趣味になってしまったようです。
なんでも、少年の母親は、昔ガーデニングが趣味だったそうで、家には空の植木鉢が大量にあったんだとか。
少年は、両親に対して不満があったのかもしれませんね。だから、植木鉢が激しい音を立てて割れる光景を見ると、たまらない快感を味わっていました。
そんなある日、少年がいつものように植木鉢をベランダから落とそうとすると、ベビーカーに赤ちゃんを乗せた女性が下を歩いていました。
少年は、その日学校で嫌なことがあったこともあり、ヤケになって、そのまま植木鉢を落としたそうです。
すると、女性のほうに植木鉢が激突し、女性は意識不明の重体になってしまったんだとか。
少年は、大人たちに訳を聞かれて、ずっとこう言っていたそうです。
「失敗した」
と。皆が、人に当ててしまったことを失敗したと言っていると思いました。
ところが、違いました。
そのうち、こう言い出したのですから……。
「失敗したよ。赤ちゃんのほうに当たっていたら、もっと面白かったのに」