実話・○○パークホテル 投稿者:奈乃咲

それは、私が中学生の頃に起きた出来事です。

父母弟私の4人家族は、私と弟が少し珍しい習い事をしていることもあり、週末は車でたびたび遠征に出かけていました。
私の父は幽霊など一切信じない超現実主義者ですが、そんな父が車を運転する際はナビ案内をつけているにも関わらず、墓地や山の獣道、沼地など人気(ひとけ)の少ない、変な場所に辿り着くことが多くあるのでした。

そういった父の体質のせいか、指折り数えられるほどの怖い体験はあったのですが、その中で一番怖かった思い出を話そうと思います。

時には車中泊をすることもある遠征ですが、その日は次の日が習い事の決勝戦だったため、練習場近くのホテルを探すことになりました。
練習場は山の中にあり、遠征に来ていたため土地勘のない私たちは車のナビを頼りに、ホテルを探しました。

「○○パークホテル」
実在している、もしくはしていたホテルのため名前を伏せます。

練習場に一番近かったため、そこに決めました。

ナビの通りに進み、着いたホテルの外観は重くどんよりとした雰囲気が漂い、ひどく寂れていました。
そして一番に目に入ったのは、隣にある薄気味悪い祠でした。ホテルの敷地の真隣にあり、頭の取れたお地蔵様のような石像がずらりと並んでいました。

私と母と弟はこの時点でとても気が引けたのですが、父は幽霊や祟りなどまったく信じない現実主義者。
泊まる気満々でホテルの中へと進むため、私たちも渋々着いて行くのでした。

中に入ると、湿気た空気が体をまとわりつくようで、肩と腰が少し重たくなったような印象を受けたのを覚えています。
なんやかんや、鍵を受け取り、部屋まで行くのですが、廊下は薄暗く、床には真っ赤な絨毯が敷かれていました。

部屋にたどり着いて、ようやく父も変なところに来たと自覚したようでした。

部屋の窓は全て割れ、新聞紙で舗装されていたのです。

流石に出るか……でも今からホテルを探すのも……そんな話を両親が話している中、それまであんなにも嫌がっていた小学生の弟が

「嫌だ、いやだ!俺、ここがいい。」
「ここに泊まる!もう疲れた。眠い!」
と部屋に敷いてあった布団にくるまり、駄々をこね始めたのです。

いよいよ、やばい。と、両親と私は嫌がる弟を引っ張りホテルを後にしました。

そこから車に乗り込み、ホテルを探すのですがナビの調子が良くありませんでした。

少し進むと、砂嵐のようにザーッと画面が乱れるのです。さほど古いナビということもなく、これまでに砂嵐のように乱れたことは一度もありませんでした。

私はいよいよ怖くてたまらず、泣いていました。弟は疲れたのか、ぼうっとし、母は焦ったような困ったような、何も理解できないといったような表情で呆然としていました。

そんな中、父が
「よし、じゃあこのナビに向かって、喝!って言ってみよう。案外効くかもしれないぞ」
なんて、冗談っぽく言いました。
当時の私は、こんな状況で冗談を言うなんて!!と心底怒り心頭でしたが、今思うと父なりの気遣いだったかもしれません。

そして、4人で声を揃えて
「喝!!」と言いました。

すると、ピタッとナビ画面の乱れが止まり、それ以降普通の画面に戻ったのです。

流石に父も笑えず、私もさらに怖くなり、もうその先ことはあまり覚えていません。
ただもう、ホテルは諦めて、結局は練習場の駐車場で車中泊をしたかと思います。

ひとつだけ覚えているのが、喝と唱えてからしばらくした後、弟に「なんであんなにホテルを出るの嫌がったの?あんな気持ち悪いところに泊まろうとしてたんだよ」って言うと、
キョトンとした顔をして「そんなわけないじゃん。俺だってあんなところ泊まりたくないよ。」と答えたことだけ記憶しています。

これが私が実際に体験した中で、恐ろしかった思い出です。
幽霊を見たとか、そんな特別なことはないのですが、実際に幽霊が存在しているような、理解できない現象が起こったと今でも思います。

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