笑い声が苦手な友人 投稿者:林きつね

友人と酒を飲んでた時に聞いた話なんですけど。
飲み始めて2時間ぐらいたって、お互い結構酔っ払って、普段言わないような愚痴とか言ったり、それぐらいになってる時にその友人が言うんですよ。

「俺な、実は人の笑い声がちょっと苦手やねん」

また珍しいもんが苦手やなと、私も気になって理由を聞いて、それで教えてくれた話です。

その友人、3つ下の弟がいまして。小さい頃は夏になるとしばらくの間おばあちゃんの家に預けられてたんですね。
おばあちゃんも一人暮しだから、友人兄弟が来るのを毎年凄い喜んで、ちょっといいお菓子だったりがいっぱい貰えるんで、友人も毎年結構楽しみだったそうです。

友人が小学校二年生の時、その年も夏になって、弟と一緒におばあちゃん家に行ってゆっくり過ごしてたんですけど、弟の方は退屈みたいで結構一人でうろちょろと遊びに行ってたんです。
ある日、押し入れかどっかから見つけてきたんでしょうが、弟がおもちゃを一個持ってきたんですね。
それが、笑い袋だったんです。

小さい袋で、真ん中を押すと笑い声が出るっていうあのおもちゃ。
それでね、ずっと遊んでるんです。
『アハハハハ』『アハハハハ』
って鳴らしながら。

どうもそれが、小学校二年生の友人にとっては凄い気持ち悪かったそうなんですよ。
近くでその笑い袋で遊んでたら「やめろ」って言うぐらいには。
それでも弟はそれ気に入ってますから、全然やめないんですね。
暇があったらずっと遊んでる。
おばあちゃんの家から帰る時も変わらずずっとそれで遊んでるから、おばあちゃんも「持って帰っていいよ」って言ってくれて、その笑い袋を弟は家に持ち帰ったんですよ。

弟、家に帰ってもずっと笑い袋で遊んでて『アハハハハ』『アハハハハ』
友人が何度やめろと言ってもやめない。
ずっと弟は遊んでて、その度に気持ちの悪い笑い声が耳に入る。とうとう友人怒って、弟の手から笑い袋をひったくって思いっきり壁に叩きつけたんですよ。
ガンッ!って音がして、そのまま音が鳴らなくなって。

弟にしてみれば、いきなりお兄ちゃんにおもちゃひったくられて壊されたもんだからワンワン泣いて、親もすっとんできて友人に謝らせたんですけどそれでも弟は泣き止まないので、駄目元で、『電池交換して動かなかったら諦めてね』ってことでなんとか落ち着かせたそうなんです。

それで友人のお母さんが袋から中に入ってる機械を取り出して電池が入ってるところ見たら、電池が入ってない。空っぽだったそうです。

電池の入ってない笑い袋から嫌な笑い声がずっと聞こえてた。
まあそりゃ確かに笑い声が苦手になっても仕方がないなと私はその話を聞いて思いました。
それで友人、まだ話を続けるんですよね。

「俺、あの時の笑い声ほんまに気色悪くてな、今でも頭の中で覚えてるぐらいやねん。ほんでな、何年か前にテレビ見てたらな、芸人が笑い袋使ってなんかやっとってん。その声な、俺の記憶の中にある笑い声と全然ちゃうかってん」

まあ笑い袋って言っても一種類だけじゃないやろうしという私に、違うと友人。
そんな次元じゃないと。なんというか根本から違ったと。
どういうこと? と聞き返す私に、友人ゆっくりこう返しました。

「あの時鳴ってた笑い声な、あれおもちゃじゃなくて、ほんまの人間の笑い声やったと思うねん」

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