これは私が実家近くの山へ母と愛犬と出掛けた時の話です。
そこは、ロープウェイがあり山頂がちょっとした観光地になっている場所で、よくテレビでも特集されているような有名な山でした。
車ではまだ行ったことがない山だったため、カーナビをセットして母の運転で向かいました。
高速道路も渋滞しておらず順調に進み、幸先の良い旅のスタートでした。
問題が起こったのは下道に入ってからのことです。
地元の人しか通らない道を法定速度で進み、無事目的地の山が見えるところまできた時のことでした。
ポーン
ナビが急に音をあげました。
「次の角を右折です」
そこは田舎の一本道、右折する道なんて存在していません。
ナビの位置情報がバグったのだろうと思い、そのまま道なりに進むと
車が2台ギリギリ通れるかも?というくらいの幅の山道にたどり着きました。
「…ここ入るの?」
「でもナビはこの先の道に誘導してるから…」
「すれ違い怖いけど、仕方ないね」
入り口の狭さから不穏な空気を感じつつも、一応道はあることと
ナビをたどって見てみると最終的には目的地に旗が立っていたためその山道を進むことにしました。
ガタガタガタ…
山道は石や木がゴロゴロしているオフロード状態で、タイヤが大きな音を立てて道を進んでいきます。
山の中ということもあり、鬱蒼と茂る木で影になる箇所が多く昼なのに暗くじめじめとした空気が漂っていました。
その道を30分程走った時、少し開けたところに出ました。
広場のようなところで、中央に大きな石が立っていました。
ポーン
ナビがまた音をあげます。
「目的地周辺です。案内を終了します。」
目的地周辺?
そんなわけがありません。
ナビはたしかにここを指していますが、今いる場所はテレビで見ていた山頂とはほど遠く、何もないに等しい場所でした。
すると急に後ろで寝ていた愛犬が吠え始め、落ち着きがない様子で車内をウロウロし始めました。
目的地とは違う場所に案内された恐怖と、言葉にできない雰囲気の悪さと、犬の尋常ではない様子に怖くなった私たちは、その広場でUターンして急いで山を降りました。
山道を降り、別の道から入り直したところ無事に本来の目的地に着くことができました。
ただひとつ…広場にあった大きな石のそばをUターンで通った瞬間、
私の目にはそこに書いてあった「慰霊碑」の文字が目に入っていました。
母は運転に夢中で見ていなかったようなので、怖がらせまいと思い未だにその文字の話はしていません。
私たちを誘ったのは誰で、一体なぜ私たちだったのでしょうか。
あれから何度かあの山へ行っていますが、再びあの場所へ誘導されることはありませんでした。