街灯の灯りが、パチパチと点滅し寄ってくる虫を歓迎している。
更に、その下では疲れきり片手にビニール袋を引っ提げて歩く女性が1人いた。
『はぁ…残業とは、いえ。』
彼女は、スマホを取り出して時間を見た。
『もう22時なのか…セビリアの理髪師間に合わないな。』
大学の後輩に薦められた作品で、今日のリアルタイムで見たかったが願い叶わず。
『もう、今日は残業しない予定だったのに!』
そして、自身が住むマンションに着いた。
先月引っ越して来たばかりだが…このマンションには様々な機能がある。
エントランスにはセキュリティ用のタッチキーを当てると自動ドアを開き同時にエレベーターも1階に来るようになっているのだ。
そして降りてきたエレベーターに乗り込む。
『ええと、6階っと。』
彼女が住むマンションは、エントランスでタッチキーを当てるとエレベーターに登録情報がいき呼び登録してくれる。
そして、扉が閉まりエレベーターが動き出す。
すると、上部よりカラカラと音が鳴っていた。
『え?何,この音?』
彼女は、不快感を感じたがエレベーターは気がつくと目的階に着いた。
すると、ドアが何かに引っかかる様に開かなかった。
『え?何で、開かないのよ!』
エレベーターのドアは開こうとするが結局開かずにアナウンスが流れた。
「最寄り階まで運転します、最寄り階まで運転します。」
するとエレベーターは、ゆっくりと下がり始めてやがて5階に着いた。
「足元に気をつけてお降りください。足元に気をつけてお降りください。」
ここでは、ドアが普通に軽やかに開いた。
『もう、何なのよ…本当に。』
そして、エレベーターより降りて階段で6階に向かった。
『あの会社ちゃんと点検しているのかしら?』
最近、マンションの予算節約の為にエレベーターの点検をメーカーから安いメンテナンス会社に変えたのだが…その時からだろうか不具合が度々見られるようになった。
『やっぱり安いだけじゃ駄目ね。明日、管理人さんに言おう。』
そして、自身の部屋に着いた。
表札には、白鳥(しろと)と飾ってあった。
彼女の名前は、白鳥 結幸(しろと ゆこ)。
仕事は、雑誌の編集に携わっている。
『ただいま~まぁ誰もいないけどね。』
白鳥は、部屋に入り取り敢えず着ていたシャツを脱ぎ洗濯機に投げ入れスカートを脱ぎ冷蔵庫を開けた。
その中から、発泡酒を取り出しコンビニで買ってきた肴を出した。
そして、発泡酒の封を開けてゴクゴクと飲み満足したかのような放心な表情をしていた。
『あぁ~生き返る。そいやさぁ吉備部長もだけど…太朽の野郎っ!明日覚えてろ~!』
今日の仕事の不満を話した。
『でねぇ?ましてやさぁ…私のランチタイム邪魔しやがったんだよ?有り得なくない?』
愚痴をいい放つと、酒が進み気がついたら3缶飲んでいた。
翌朝……。
白鳥は、何時もの時間に起きるが…昨日の夜の記憶が無い。
『私…ベッドで寝たの?髪もベタついてなくメイクも落ちている…。』
ちゃんと、やってから寝たんだと1人関心していた。
『……誰も来てないよね?』
テーブルの上には、夜飲んだ発泡酒と肴があるのみ。
『まぁ、良いか。』
白鳥は、顔を洗いメイクをして着替えると冷蔵庫に入れてあるフルーツ入りヨーグルトを取り出し。
『いただきます!』
朝食として、食べた。
そして、食べ終えたヨーグルトの容器をゴミ箱に入れて部屋を出た。
6階のエレベーター乗り場釦を何の気なしに押すとエレベーターが上がって来てドアが開いた。
そのままエレベーターに乗り込み1階の釦を押すとエレベーターは1階に向かう為、下がり始めた時に白鳥は思い出した。
『そういえば、昨日のドア開かなかった事を管理人さんに言わなきゃ!』
白鳥は、1階に着くと管理人さんの部屋に向かった。
『おはようございます!真郷さん!』
真郷と呼ばれる管理人は、読んでいた新聞を畳み小窓を開けた。
「おはようございます、白鳥さん。今日も仕事ですか?大変ですね毎日。」
真郷は、笑顔で受け答えしてきた。
『はい、ありがとうございます!じゃなくて、実は……。』
白鳥は、昨晩のエレベーターでの事を話した。
「なるほど…今週の頭に点検に来たばかりなんだけどね?わかりました、今日見て貰うので安心してください。」
真郷は、日誌にスラスラと白鳥の話を書いていた。
『では、宜しくお願いしますね?』
白鳥は、軽く会釈をする。
「白鳥さんも気をつけて行ってらっしゃいませ。」
真郷は、軽く手を振り白鳥を見送った。
そして、今日も会社に着くと足早に自分の部署に入り席の前まで来た。
すると、長い髪で長身の男が近づいてきた。
「おはよう白鳥君。昨日は、急な残業をお願いしてしまって申し訳無かったね?」
『おはようございます、吉備部長。いえ気にしてませんから大丈夫です。』
その男は、上司の吉備部長だった。
その見た目と性格の良さから、部下から信頼度は高いのだ。
「あっ!ごめん白鳥君っ!ちょっと、電話が…。」
『いえいえ、大丈夫です。』
そして吉備部長は、携帯電話に出て話始めたが少し会話が聞こえてきた。
「もしもし…星南?えっ?本当にかい?わかった、じゃあ今日は早く帰るからさ。」
「ふふ。」
吉備部長の顔が、幸せそうだった。
『朝から何か、良い事があったんですか?』
「ああ、妻から何だが…娘の作品が最優秀作品に選ばれたんだ。妻に似て、お話を考えるのが好きだからな。」
吉備部長の妻の星南さんは、元々この会社に作品を投稿している作家さんで私とも親しかった。
『ご家族の仲が良くて何よりです。じゃあ、今日は早く帰ってあげた方が良いですね?』
「そうだな。今日は、御言葉に甘えよう。」
すると…息を切らしながら入って来た男が居た。
「ハァハァハァ…ししし白鳥さんおはようございますとススすみませんでしたぁっ!」
その男は、開幕白鳥に謝罪した。
『あっ…太朽君?何か、要かしら?』
白鳥は、太朽という男をまるでゴミを見るかのような眼で見た。
「いや、その…本当に。」
『まぁ…今日は、お昼ぐらい奢ってね?それで許してあげるわ。』
「わぁっっ!ありがとうございます!」
で、朝から何か色々あり1日の業務が終わった。
『じゃあ、今日は定時で帰ります!』
「あぁ、お疲れ様。」
その私の言葉に反応し、帰る支度をしていた吉備部長も言葉を掛けてくれたのであった。
そして、白鳥は自身に住むマンションに着いてエントランスにてタッチキーを当てようとすると管理人の真郷が近寄って来た。
「こんばんは、白鳥さん。今日もお疲れ様でした。」
『真郷さんも、今日もお疲れ様です。』
「そう言えば、今日はエレベーター屋さんに来てもらって見て貰ったんだけど…何とも無いって言われたんだが…もうあのエレベーター屋さんの対応が酷いから明日またメーカーさんに見て貰う事にしたよ。」
温厚な真郷さんが、言うくらいなんだから結構酷い対応だったのだろう。
『わかりました、ありがとうございます真郷さん!では、お休みなさい。』
「ええ、お休みなさい。」
白鳥は、真郷に軽く会釈をして開いた自動ドアの中に入りエレベーターに乗り込んだ。
そして、自動的に6階が登録されてエレベーターが上に上がって行く。
すると、昨日聞いたエレベーターから聞こえたカラカラ音から明らかに違う金属を抉るような音がした。
『え?本当に大丈夫なの?』
白髪は、心配しながらも気がつくと6階にエレベーターは着いた。
が…昨日と同じくエレベーターのドアは開こうとするが何かに引っ掛かかるよう開かなかった。
『また?もう…本当に、嫌になる。』
そして…エレベーターのアナウンスが鳴り始めた。
「最寄り階まで運転……ももももっ」
『ん?どうしたのかしら?』
「モウ…、オリレマセン……。」
『え?何?』
「サイジョウカイマデウンテンシマス…サイジョウカイマデウンテンシマス。」
すると、エレベーターは動き出したが昨日の様にゆっくりでは無く通常速度で上昇し出した。
さっきの金属を抉るような音も徐々に大きくなっていく。
『え?何々っ!音が大きくなってぇ!いやぁっ!』
「コワクナイコワクナイアナタニハワタシガイッショ。」
『何を訳が分からない事をっ!そうだぁ!インターホンっ!』
白鳥は、エレベーターの受話器のマークの釦を押したが何も鳴らなければ何も起こらない。
『な、何なのよ!何でぇっ!』
そして、エレベーターは最上階につく前に上で何かが弾けて取れるような音がするとエレベーターの上に落ちた衝撃音がした。
『きゃあっ!今度は何よっ…。』
そう考えたのもつかの間、エレベーターの中の白鳥が宙に浮く感覚があった。
『え…もしかして。』
「ツギハ…サイカカイマデラッカシマス。サイカカイマデラッカシマス。」
またアナウンスが流れる。
「アハハハハハハハハハブヒャヒャヒャヒャ」
汚い笑い声が聞こえてきた。
『嫌だぁっ!止まってっ!下ろしてよ!』
白鳥は、無我夢中で必死にドア開けようとした。
『何でぇ…止まらないのよ!』
「ウヒヒヒヒ…イッショニオチルノタノシイナワタシハコレデ」
『お願いだからぁっ!止まってよ…。』
その時、白鳥はエレベーターのドアのガラス部分に人影がうっすら見えた。
恐る恐る後ろを見ると、エレベーターの中の鏡に血で染まった作業着の男が鏡から白鳥をニヤニヤと見ていた。
『ひっ!』
「キノウヘヤデオサケノミナガラハナスキミノグチハ面白かったよウヒヒウヒャヒャヒャ。」
昨日…気がつかず無意識で白鳥は部屋に招き入れていたのだ。
それに気づき白鳥は、恐怖で失禁した。
「エレベーターナイハミンナデタダシクキレイニツカイマショウ。」
「マモレナイヒトハ」
「モウ…出られません。」
次の瞬間に、エレベーターは最下階に勢いよく激突して凄い音がした。
その音を聞いて、管理人の真郷が出てきた。
「な…なんと、急いで連絡を!」
下からグシャっと潰れたエレベーターは、悲惨だった。その中には、頭を強打し出血した白鳥が倒れていた。
暫くして、救助隊と救急車が来たが…白鳥は亡くなっていた。
その顔は、恐怖に怯えた顔で目玉が飛び出るかのようだった。
そして…その後の調査により点検をしていたエレベーターメンテナンス会社のメンテナンス不良と安全装置が動作しないようになっていた。
その会社は、世間から糾弾されたが本来にそれだけなのか?
白鳥が、死ぬ直前に見た作業着を来た男は何だったのか?
事故の調査の際に、エレベーターのピット内には僅かながら血痕があったという。
それが、誰の物か語られるのも近いかもしれない。