見知らぬ女性 投稿者:R

某ホラーゲーム制作に携わっている者です。
これは先日社内で本当にあった話です。

その日、私はいつものように会議室へ向かっていました。
前の会議が終わっていないのか、会議室の前には人だかりが…。
これ自体はよくあることなので他の人達にならって私も会議室前で待機することにしました。
その人だかりの中に、見たことのない女性がひとり。
社員証をつけているので、どうやらうちの社員ではあるようです。
しかし、手にはパソコンもノートなども持っておらず、誰かと話してもいない。
(新しい人かな?誰の部下なんだろう…?)

不思議に思っていると、会議室のドアが開き中からゾロゾロと人が出てきました。
入れ替わるようにして会議室の中に入り、席にパソコンを置いて前を向くと先程の女性の姿がありません。
周りを見渡してもその女性はどこにもおらず、いつものメンバーの姿だけがそこにありました。
女性は確かに私より前に会議室に入りました。
パソコンを置いたあの一瞬でいなくなるなんて、ありえるでしょうか?

そして怖いのが、会議が始まっても誰もその女性については触れないことです。
そんな人は初めからいなかったかのように、会議はつつがなく進み終わりを迎えました。

人が一人消えたのに、誰も触れないという事実が怖く、そのあと誰にも女性のことは聞けませんでした。

もしあれが私だけに見えていた女性だったら…
彼女は一体何を伝えたかったのでしょうか。

カテゴリー: みんなで創る百物語

洞穴 投稿者:おのっち

小学生の頃、遠足で小学校から川向かいにある山に登った時の話です。

中腹あたりに、石造りの洞穴があったのでそこで休憩することになりました。

熊などを警戒してか先生たちは入口付近で休んでたのですが、自分含め何人か奥まで入ってみました。
そしたら、徒歩1分ほどにあった奥の壁に人骨と首元に刺さった鎌が。

当時は「山の中は物騒だなー」とスルーしたのですが、今思うと学校の近くでそんなものがあったことに戦慄を覚えます。

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音楽室にて、背後から 投稿者:寝違ヱル

中学3年生の秋、僕たちのクラスは文化祭で披露する合唱の練習に熱を上げていた。

 合唱に力を入れる先生がクラス担任だったことや、その先生に感化された生徒も多かったことから、練習への情熱は他のクラスと比べても頭一つ抜きん出ていたように思う。
 僕も、
「俺は女子のそばに立って歌ってるから音が引っ張られそうになることもあるんだけど、お前の声を聴きながら歌ってれば間違えない」
「声がよく通るから助かってる」
…などとクラスメート達に言われている内にすっかりその気になってしまい、気がつけば男子生徒の列の最後方から声を張り上げ続ける毎日を送っていた。

 文化祭まであと数日となったある日、校舎の4階にある音楽室を貸し切って全員で練習をしていたときのこと。
 残り時間的に次の通し練習が今日最後の練習になるだろうということで、本番さながらにピン…と張り詰めた空気のなか、指揮者の生徒が動き出し、伴奏が始まった。
 さすがにもう誰も歌詞を間違えないし、音程もリズムもズレない。担任の先生から

「仮に誰かが途中でなにかミスをしたとしても、指揮者が壇上から降りるまで目を逸らさないように」
と教えられていたのだ。全員が同じ方向を向いて同じリズムを共有しているのが、僕の立っている男声パートの最後列からはよく分かった。

 ところが。
 これといったミスもなく、最後の大サビを歌いきった時だった。
 まだ伴奏が続いているにも関わらず、視界の中の男子生徒全員が後ろを振り返った。何故かみんな僕の方を見ている。いったい何だ…?僕自身はなんの異常も感じていなかったので、伴奏が終わるまで指揮者を見たまま動かなかった。
 
 練習が終わり、先生が解散の音頭を取るよりも早く、男子生徒達は口々に騒ぎ出した。
 なんでも、

“”自分たちの背後から聴き覚えのない高い声がした””

というのだ。
 それでみんな気になって後ろを向いたらしい。

「悲鳴みたいだった」

とか、

「女の声だった」

とか、言い方は様々だったがとにかく男子の声とは思えないような高い声だった…と、彼らは口を揃えた。
 おかしなことに、男子生徒全員と一部の女子生徒、更には担任の先生にまで聴こえたというその声は、僕にはまったく聴こえていなかった。
 僕自身は声がかすれたり裏返ったりといったことはなかったし、僕のすぐ隣にいた友人も

「こいつの声はいつものように聴こえていた。声が裏返ったとかそういう様子はなかった」

と言った。
 言うまでもなく僕達が練習している間、音楽室に入ってきた人は誰もいないし、そのうえ僕達最後列のすぐ後ろには壁があるだけだ。人の声どころか物音すら鳴るはずがない。

「きっと、廊下に出ていた下級生がなにか騒いだんでしょう」

と、担任の先生は言ったが、僕達の後ろにある壁は廊下に面していない。下級生の騒ぎ声が僕の後ろから聴こえるとは考えにくかった。
 結局、その声の正体は分からず仕舞いのままその日の練習は終了した。

 その日以来、『合唱中に聴こえてきた謎の声』という話は物好きな生徒たちの間で噂として広がった。
 僕はその声を聴いていないこともあり、その噂話にはいまひとつ乗れないまま卒業してしまった。そもそも建て替えられてから十年経ったかどうかの綺麗な校舎だったのだ。風情も何もあったものではない。どうせ何かのきっかけで起きた何かしら別の音が人の声みたく聴こえたんだろうな、と思っている。

 …いや、思おうとしているのかもしれない。

 あの時。視界の中の殆どの男子生徒と目が合ったあの瞬間。一人だけ同じように振り返ったにも関わらず目の合わなかった奴がいるのだ。
 彼はその年の春、隣町の学校が廃校になるのに伴って僕達の学校にやってきた数人の生徒の内のひとりだった。班行動なんかで一緒になることもあったから全然話さないわけでもなかったのだが、お互い人見知りをしてしまったようであまり深い付き合いは出来なかった。
 だから特別霊感が強い奴だとかとかそういう話も聞いたことがないし、この音楽室での一件の時も特段やり取りをした記憶がない。もしかすると僕自身、彼の話を聞くのが怖くて避けたのかもしれない。
 彼があの時何を見ていたのか、連絡先も聞かないままずいぶん経ってしまった今では確認のしようもない。
 僕も彼の視線を追って振り返っていたら彼と同じものが見えたのだろうか。

 みんなが振り返って僕と目を合わせる中、彼は僕の顔から向かってやや左…壁しかないであろう一点を無表情のまま凝視していた。

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先が見えない港町 投稿者:GSY-UcD

変わらぬ海原の脇を走るロケバスの中で、ただ景色だけを見ている男が居た。
それは、今を煌めくアイドル…KAIである。

彼は、今回テレビ番組のロケでとある港町に向かっていた。
バスの窓から、潮風と潮の匂いが漂ってくる。

『けっ…夏でも無いのに海なんて、潮風でベタベタするだけじゃないかよ?』
と…文句を言っていたが、裏から彼の頭をスカーンと良い響きで叩く音がした。

『くっ…何しやがんだぁっ!』
そして裏を向くと、可愛らしい女子が丸めた雑誌を持ってニヤニヤしていた。
「ウフフ、KAI君?情けないわね、そんな姿をファンの子達が見たらガッカリするよ?」
『ちっ…うるせぇよ。馬路(めみち)。』
彼女は、今売れっ子のレポーター馬路 釆(めみち さい)で今回はKAIのお供として参加していた。
「ククク…ユキ君に私さぁ、心配されちゃったんだよね?KAIは、女癖悪いから気を付けろってさ?」
『お前やユキに、そんな事言われても新鮮味なんか無いからよ…。』
少し…KAIは、プンプンと怒り出した。
「怒った?ごめん~ごめん。でも、事実だから仕方無いじゃん?」
更に煽る馬路の言葉には、KAIは耳を傾けないようにした。

『俺は、寝る!着くまで起こすなよ。』
すると、直ぐに眠りについた。
「ちぇっ、つまんないの。あっ!星南ちゃんからだ!」
馬路も、KAIが寝てしまったので友達から来たメールを返していた。
「お土産期待してね?……っと。送信。」
「ふふん~星南幸せそうだなぁ~二人の娘ちゃん可愛いしね?。」
友人から送られてきた、家族で写る写真を見ると思い出す。
「あの時に、後押しして良かったよ。」
馬路は、自分の携帯の待ち受け画面を開けると婚約者のユキこと…幸晴にお姫様抱っこされ友人達に祝福されている写真があった。
その中には、笑顔のKAIも居た。
「(KAI…海嶋も悪いやつじゃないんだけどな。)」
馬路は、携帯の画面を閉じて窓の景色を見ると海原が見えた。

波止場では、釣りをしている人がいて楽しそうだった。
「面白そうだなぁ~。」
気がつくと、目的地である港町に着いた。
『んっ……着いたか?』
KAIは、背を伸ばして首をコキコキとした。
そして、足早にロケバスから降りるとロケの最初の場所は港だったのでKAIは降りるや否や嫌な顔をした。
『あぁ…魚臭いな。』
スタッフも一緒に降り、続けて馬路も外に出た。
「ふわぁ…良い磯の香りがする。」
そんなコメントをしている馬路を見て、KAIは少し不貞腐れた顔をした。
『けっ…ロケやるならさっさとやろうぜ?なぁ馬路よ?』
「わかったわよ、じゃあ…カメラさんお願いします!」

そして、ロケが始まった。

「はい!皆さん、こんにちは!馬路 采ですよ!今日は、ですね大人気アイドルであるこちらの方が来てます!」
カメラは、向きを変えた。
『よう!俺が言うのもあれだが、今を煌めくKAIだぜ!今日は、宜しくな!』
白い歯をキラッとみせて、ポーズした。
だが…廻りには特に人は居なかったので結構寒くなった。
「…はいっ!そんな、KAIさんでもここでは普通の人ですねアハハハ。」
馬路は、フォローしつつ爆笑していた。
『なっ!?笑うなよぉっ!?』
俺様キャラなKAIでも、恥ずかしくなる時はある!
「ではでは…気を取り直して周りを散策しましょう……ん?KAIさんKAIさん彼処で屋台やっているよ!行ってみようよ!」
その屋台から香ばしい匂いも漂っていたため馬路は興味深々だった!
『ちっ…しゃあねぇなぁ?』
KAIは、嫌々言いつつ着いて行った。

「はいっ!いらっしゃい!美味しい美味しいタコの唐揚げだよ~。」
そこの屋台には、短髪の青年と背が高い青年が居た。
「すいません~2つ 下さいな?後、ビール2つ。」
馬路は、着くや否やビールまで注文した。
『え…大丈夫かよ?』

KAIは、少し戸惑った。

「うふふ、旅番組だから美味しそうな魅力を伝えたいから良いんです~。」

馬路は、ニヤニヤしながらKAIに言った。

『まぁ…馬路がそう言うならよ。』
すると、屋台の青年がピクっ…と反応した。
「馬路…もしかして、采ちゃん?」
髪が短い青年は、当たり障りが無いように聞いてきた。
「そうですけど……ん?あっ!もしかしてクロやん?!」
KAIも、馬路の言葉を聞いて反応した。
『剣崎…。』
「良く見たらっ!ジマじゃん!?ユウヤ!采ちゃんとジマだぞっ!」
クロやん…剣崎と呼ばれている青年。

本名は、剣崎 玄(つるぎさき くろ)という。
そして彼は裏でタコの下処理をしていた青年にも二人の事を言った。

「え?馬路と海嶋が…。」
その青年は、スクッと立ち上がりカウンターまでやって来た。
「久しぶりだな…二人とも。」
『兆実……。』

もう1人の青年は、兆実 祐哉(ちょうざね ゆうや)。
「ザネやんも、久しぶりっ!」
「あぁ…久しぶり馬路さん。」
「そう言えば…ザネやん?今さら聞くのも何だけどさぁ桃子とは結局どうなったの?」
馬路は、ニヤニヤしながら聞いた。
「桃子か…。別れたよ、暫く前にね。」
兆実は、タコを揚げながら答えた。
「えっ?」
『なっ…何言ってんだ?おい。』
KAIは、怒るように兆実に問い掛けた。
『俺は…仕事の為、彼奴を諦めたんだぞ…お前に……お前にならって任せられるって諦めた。』
『どうして別れたんだ。』
油の中のタコが、パチパチ音を鳴らしながら揚がるのを箸で世話しながら兆実は、話した。
「単純に、桃子が真に好きな男を見つけたんだ…だから俺は身を引いたんだ。君の好きな様にしろって。 」
『そ…そうだったのか、何か申し訳ない。』
「いや、私も思い出すような事を聞いてごめんね?」
兆実は、揚がったタコの唐揚げを油切りをする。
「まぁ…な、わけでさぁ祐哉と俺で屋台やってんだよ?縁日とかじゃなければココでタコ唐揚げ屋やってんだよね?」
剣崎は、そう言いながら油が切れたタコ唐揚げをパックに入れた。
「マヨネーズとケチャップどっちにする?」
『マヨネーズ』
「じゃあ、ケチャップ!」
剣崎は、慣れた手つきでマヨネーズとケチャップをパックに添えた。
「はい、お待ちどうさま!後…はい!ビールね?そこに、テーブルがあるからね?使ったら良いよ!」
そのテーブルは、丁度…港を一望出来るように設置されていた。
二人は、席に腰掛け割り箸を割ってカメラマンに撮影の合図を送った。

「私、驚いちゃってね?まさか…私とKAI君の同級生と出会ってね!?まさかのタコ唐揚げ屋さんやってたので真っ昼間からビールと一緒にいただいちゃいます!」

『……うまい、やるじゃないか。』
KAIは、タコ唐揚げを一つ食べると直ぐにビールを飲んだ。
『ぷはぁ~うめぇよ!真っ昼間から飲むビールってウマイな!』
KAIは、かなり満足な顔をしていた。
「KAIさんKAIさん、一応私達はちゃんとリポートしなきゃ駄目ですからね?」
『ココから海を見ながら、ビールを飲む…最高です!』
「えっ?それだけ?」
『えっ?』
「KAIさん…下手ですね?」
『………………あぁ~このタコ唐揚げがぁっががががが…ウマい。』
「………………なるほど。」
馬路は、ニヤニヤしながらKAIを見た。

これで、一旦撮影を区切り違うリポートをするべく離れる事にした二人。
「じゃあね、クロやん~ザネやん~。」
「あぁ、采ちゃんとジマも達者でな?」
すると、兆実がKAIに寄って来て馬路に聞こえないように言った。
「……お前は、もう来るな。」
『あ?何でだよ!?』
「……海嶋、お前達には前に進んで欲しいそれだけだ!」
『あっ!?キザな事を言いやがって…結局は何なんだよ!』
KAIは、少し荒っぽく言ったが兆実は顔色を一つも変えなかった。
「今は、馬路を…助けろ。それだけさ。」
そう言い兆実は、屋台に戻って行った。

『何なんだよ…全くよ。』
「KAIさん!次行くよー!もたもたしていると日が暮れちゃうよ!」
気がつくと、そこらじゅうに霧が発生していて先の風景など見えなくなっていた。

「うわぁ~凄い!霧がぁ凄い!これじゃあ、先に何があるかわからないね?」
『ちっ…兆実のやつ。』
「どおしたの?KAIさん?」
『な、何でもねえよ…。たくっ…。』
少し不貞腐れて顔をKAIは、馬路にしてしまったが馬路は言及せずKAIに言った。

「まぁ、取り敢えずは今日のリポートを楽しもうよ!今だってさ、霧凄いしさ!カメラマンさん!コレも写しといてよ!」
だが、返事がない。
「え?人が悪いな~カメラマンさん何処いるんですかぁ?」
馬路は、辺りをキョロキョロ探す。
すると霧にうっすらと何かを持つ人物の影が見えた。

「あっ!あれかなぁ?おぉ~い!」
「あれ、返事がないね?私見てくるよ!」
馬路は、手を振るがKAIにはその人影の歩き方に少し違和感を感じた。
霧で見えないが…歩いている感じがしないのに近づいてくる。
そしてKAIは、その人影の足元が霧が少し薄くなった時に見えてしまった。

『(足が……無い。)』
その者は、膝から下が無かったのだ。
馬路は、丁度視線を外していたために気づかなかったのだ。
『戻れっ!馬路!!そいつら、人間じゃない! 』
「……えっ?」
馬路は、運悪く…その人影の顔を見てしまった。
「ひっ……か、顔が!?」
ソレには、顔が無かったのだ。

しかも、ソレは馬路を掴もうとしていた。

「(アハハ…終わった。)」
だが、馬路の手が急に引っ張られた。
『さっさと、動けよ!アホ!』
KAIが、咄嗟に馬路の手を引っ張り引き寄せたのだ。

馬路を掴もうとしていたソレは、空振りになり体勢を一度崩したが再び持ち直すと此方に向かってきた。

「オマエアナタキサマ…ヨウコソ…コノママヨウコソ……。」
何か、訳がわからないことをソレは言い出した。
『意味わかんね……意味わかんねぇよ!逃げるぞ!馬路っ!』
「え?他の皆を探さないと……。」
『そんな事、言ってる場合かよ!馬路に何かあったら……ユキに合わす顔がねえよ!』
「…わかったわよ!」
ソレから逃げるために、霧で覆われる港町を走った。
幸い…ソレは早くなく、距離は直ぐに取れた。
『ハァハァ…、馬路大丈夫か?』
「もう…疲れたわよ。」
『もう、撒けただろうよ……。』
と、KAIは後ろを何となく見た際に驚愕した。

『な、何で何だ。』
裏には、ソレが見えて最初走り出して逃げた際の距離と変わって無かったのだ。

「ムダむだオマエアナタキサマ…ヌケレナイ。ココカラヌケレナイ。」
不気味な声と共に近づいてくる。
「い、嫌…何なのアイツ嫌……嫌だぁ!」
馬路は、動揺し…腰が抜けたように立てなくなってしまった。
『くっ落ち着け!馬路っ!また距離をとるぞ!』
「む、無理だよ…逃げても…また追い付かれちゃうよ!ううぅえん…。」
馬路は、泣き出した。
『勝手にっ…!』
言葉を言い掛けた際に、兆実の言葉を思い出した。
『くっ…ぐぬぅ…おい馬路っ!背負ってやるから乗りやがれ!』
「え?」
『え?じゃねえよ!ユキにまた会うんだろ!早くしろアホ!』
馬路は、KAIの背中にしがみついた。
『しっかり掴まってろよ!』
KAIは、馬路を背負いながら走った。

『行くぜ!』
「ごめん…KAI」
ソレから逃れるために。
だが…残酷な事に、ソレから逃れることは出来ず距離がどんどん詰められていく。
『ちっ…何処まで追いかけてくんだよ!』
KAIも、馬路を背負って走ったため足がふらつきながらも走った。
「……すぐ」
後ろから耳元へ声が聞こえた。
「そのまま、振り返らずに真っ直ぐ」
『これは、剣崎?』
KAIは、振り向こうとした。
「言われて直ぐに振り向こうとするな。」
これも聞いたことがある声が、前の霧の先から聞こえた。
『…わっーたよ!』
KAIは、走った。

「マテマテマテサビシイカラオマエアナタキサマ…。」
ソレが、追ってきているのは声でわかったが聞こえてくる声が小さくなっているのはわかった。
「オマエアナタキサマオマエアナタキサマオマエアナタキサマァっ!」
気がつくと、前には霧は晴れていて海原が見えていた。

「もう、こっちには来んなよ。」
「ありがとうな、海嶋。」
霧を抜けた先で、二人の声が聞こえたが…振り向かなかった。
目の前が眩しすぎて視界がままらなくなり
再び目を開くと、KAIと馬路はバスの中に居た。

『何でっ!俺は、バスに…港にロケしに行ってた筈。』
よく見ると、バスの中は横転したようで悲惨だった。
バスは、どうやら崖より落ちたようで木々に串刺しになっていた。
他のスタッフ等は死んでいた。
だが…馬路は、KAIに阻まれ下に落ち無かったようだ。
『くっ…痛っ。』
だが、KAI自身の腕にガラスが刺さっていたが大事には至らなかった。
「おいっ!大丈夫かぁっ!」
どうやら、助けが来たようだ。
『はは、取り敢えず安心だ……。』
ここで、KAIの意識は途切れて再び気がつくと病院のベッドの中だった。

「……KAI」

最初に目に入ってきたのは、ユキだった。

『ユキ……。』

「いやぁ~采から聞いたときは、驚いたよ。ロケバスが地震で崖から落ちたっ聞いた時に。」

「ありがとうな…KAIは覚えて無いかもしれないが采が落ちないようにガラスが刺さった腕で掴んでくれたんだってな。」
『残念ながら…覚えてない。まぁ、馬路が無事なら良かったよ。』
ユキは、嬉しい顔だったが少し悲しい顔になった。
「采も、病室で寝ているから後で見に行ってくれよ。」
「KAIが目覚めた所で、こんなことを言うのはあれなんだが…采が訳がわからない事を言うんだよ。」
『え?』
「いや、昔の友達に会ったってさぁ…。KAIも知ってる友達をね?」
『まさか…剣崎と兆実?』
「そうなんだよ…有り得ないんだよ。だってさ、二人は既に死んでいるのだからさ。」

KAIは、告げられた真実にポカンとしていた。

『死んだ……って。』
「あぁ…溺れていた女の子を助けようとしてさ、女の子は助かったんだけど二人は強い波に飲まれてテトラポットに頭を強打して亡くなった。」
ここで、KAIが見たあの世界で見た二人は既に死んでいたのか?
『う……うっ…、悪いユキ1人にしてくれ。』
「あぁ…わかった。」
『(俺と…馬路は、間違いなくあのバスの事故で生死をさ迷っていたんだ。)』
あの意味がわからない空間は、生死をさ迷っていたKAIと馬路を招いたのだろう。
『(彼処で、俺らを掴まえようとしたのは死神だったのかもしれない)』
ソレが執拗に追いかけて来たのは、二人を死の世界へ引き込む為に。
『(剣崎と兆実が居なかったら、多分帰ってこれなかった。)』
『(ありがとう…すまないな素直じゃない俺で。)』
KAIは、枕で覆うように泣いていた。

「(KAI……。)」
ドア越しに、それを馬路がユキと一緒に聞いていた。
貴方に、死が近づいたときにソレは先が見えない霧の中で貴方を掴もうと執拗に追いかけて来るだろう。
だが、1人じゃなければ…差し伸べてくれる手があれば未来へと進むだろう。

「オマエアナタキサマオマエアナタキサマオマエアナタキサマ……。」
ソレは、霧と共に近づいてくる。

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拐かしの水面と閃光 投稿者:GSY-UcD

暑い…太陽が照らす砂浜の下。
各々、夏を満喫するために海を楽しんでいた。

そして、砂浜に立つ一つのパラソルの下で1人水平線を眺める男がいた。

『海は良い…綺麗だし空の色をそのまま写していて神秘を感じる。』
冷えたラムネを飲みながら1人満喫している彼は…母方の実家であるこの土地にきたのであった。

「あっ!危ないっ!茂兄ぃ!」
『ん?』
声がした方を向くと…ボールが飛んできてパラソルに当たって。
そのまま、パラソルの下敷きになった。
『……茲音。』
のそっとパラソルを退けて立ち上がった。
『茲音…ここじゃなく、あっちの空いてる所でやりなさいって言っただろ?』
「テヘっ!ごめんね?じゃあ、茲音戻るから~。」
すっと、戻ろうとした。
『話終わって無いぞぉっ!』
「ふぇ~謝ったじゃん!」
彼は逃げる彼女を暑い日差しの下で追いかけた。

彼の名は、鈴森 朔茂(すずもり さくしげ)で追い掛けられてるのは妹の茲音(ここね)。
妹って言っても、血は繋がってない。

彼らが幼い時に両親が再婚をし、その時から兄妹なのだ。

「あっ!お姉ちゃん遅い…って何で茂兄ぃに追われてるのぉっ!」
この驚いているのは、二人の末妹の夏海(なつみ)である。

両親の間に産まれた子で、中学生になったいまでも二人に甘えてくる。
なので、兄妹揃って楽しく過ごしていた。
三人は、クタクタになりながらも海沿いの道をゆっくりと歩いていた。

『もう…茲音は、気を付けろよ…。』
「えへへ~ごめんね?茂兄ぃ。」
茲音は、頭をわしゃわしゃさせながら反省しているようだった。

「そうだよ~お姉ちゃん!」
夏海は、屋台で買ったイカ焼きを食べていた。
『夏海~ちゃっかりイカ焼き食べてるけど夜は縁日に行くんだからな?』
「えへへ~大丈夫だよ、茂兄ぃ。」
ムシャムシャとイカ焼きを頬張る夏海。
「(いいなぁ~私もあのイカ焼き食べたかったなぁ~)」
茲音は、罰としてイカ焼きをお預けされていた。

そして、日が暮れて…町にある高台の神社には灯りが灯され賑やかになった。
「ふわぁ~凄いぃっ!茂兄ぃ見て見てぇこの綿アメ500円しないよ!やっぱり地元の綿アメ800円はボッタクリだよ!」
夏海が、失礼な事を言いながら祭の屋台に興味深々だった。
「わぁっ!お面だよ…コレMrチクワマンだよ!凄い!チクワ感が出ていて1000円だよ…茂兄ぃ欲しいなー。」
朔茂は、寄って行ってニッコリと笑顔で夏海を見た。
『駄目だ。自分のお小遣いで買いなさい。』
「ちぇ~わかったよ。」
「ふふ茂兄ぃは夏海ちゃんには、まだ甘いと思ってたよ?」
茲音は、ニヤニヤと茂兄ぃを見る。
『甘やかし過ぎは、良くないからな。』
「じゃあ、私は型抜きやってるもん!」

夏海は、近くの型抜きの屋台に並び始めた。
『じゃあ、たこ焼き買って夏海の型抜きでも見学するか?』

「茂兄ぃ……。」
『なんだ、茲音?』
「手……繋いで良いかな?」
茲音は、手を少し上げて朔茂に差し出した。
『……何言ってんだ?ほら、行くぞ。』
と言いつつ、茲音の手を握った。

茲音は、少し赤面しクスっと笑った。

「はい!いらっしゃい!」
たこ焼き屋には、朔茂と年が近い青年二人が切り盛りしていた。
『すいません!たこ焼き1つ下さい。』
「一つですか、わかりました少しお待ち下さいね!」
髪がツンツンしている青年はたこ焼きを凄く手際よく焼いていた。
もう1人の長身の青年は、素早い包丁捌きで蛸を切り刻んでいた。
「お兄さん?もしかして、昼間砂浜で走ってた?」
青年は、たこ焼きを焼きながら話し掛けた。
『なっ!いや、お恥ずかしいところを。』
朔茂は、少し照れた。
「へへ~羨ましい限りだよ!女の子と仲良くしているなんてさ!手も繋いじゃって!」
朔茂と茲音は、顔を合わせお互い赤くなっていた。
「良いね~その先も仲良くしなよ!?」
「おいっ、クロ!お客さん滅茶苦茶来てるんだから、たこ焼き焼いてくれ。」
背が高い青年に注意される、クロと言う青年。
「悪いなぁ、ユウヤ?はい!焼きたてだよ!お待ち!」
すると小声でクロは、何か言ってきた。
「(少しサービスしといたから、後1人大事な子がいるんだろ?)」
クロは、ニヤリと笑い。
『あ…あぁ、ありがとう?』
「ありがとうございました!」
「じゃあ、またのご来店を!」
朔茂と茲音は、たこ焼き屋を後にした。

「そいや、クロさ…俺がパセリ嫌いなの知っていて切らしてる?というか、たこ焼きはパセリじゃなくて青海苔だろ?」
「……え?そうなの?」
彼らの間に少しの沈黙があった。

『おい?夏海…型抜きは、どうだ?』
朔茂が不意に型抜きに集中していた夏海に話し掛けた。
「わぁっ!……集中してたのにぃ!」
どうやら、今ので割れてしまったらしい。
「あらあら、綺麗に出来てたのにね?」
茲音は、夏海をなだめる。
「じゃあ、夏海たこ焼きを茂兄ぃと食べていてね?お姉ちゃんが、リベンジしてあげるから!」
「え?」
すると、茲音は代金を支払い型抜きを渡された。
「ふふ、孔雀ね?」
それを手慣れたように、サクサクと彫っていく。
『いやぁ~やっぱり茲音は、器用だな?』
気がつくと、綺麗に彫られた孔雀が出来ていたのだった。
屋台の人も、完璧さに商品を渋々渡した。
「見て見てぇ~茂兄ぃ!可愛いでしょ?夏海には、コレをあげる!」
茲音は、貰った商品に入っていた白いリボンのヘアピンを夏海に付けた。
「わぁ~ありがとう、お姉ちゃん!お姉ちゃんの雀のペンダントも似合ってるよ!」
夏海は、たこ焼きと茲音のリベンジによりすっかり機嫌が直ったようだ。

『じゃあ、そろそろ帰ろっか?』
「うん、わかったよ。」
その帰り道に、海沿いの道を歩きながら帰った。

「でね?でね?私ね~。」
茲音と夏海は、あの後にリンゴ飴を買って食べながら歩いていた。
『全く…暗いんだから、気を付けろよ。』
ふと海を見ると、波止場にある灯台が空を切り裂くように光を放っていた。
『明るいなぁ…。』
朔茂が、灯台の光に見とれると先程まで楽しく話していた夏海が静かになり海の方を向いた。
「暗いねぇ?あれ?あれ何だろう?茂兄ぃ?」
『え?』
「なんか、ユラユラしているよ?」
朔茂は、指を指す方を向いたが波止場に波が打ち付けられているだけだった。
『どうした?夏海…眠いのか?』
「ふふ、疲れて見間違えたんだよ?」
朔茂と茲音は、夏海を心配した。
「それなら…良いんだけど。」
二人は、海を未だに見つめる夏海の手を握り…歩き始めた。

「(何だったんだろうか?) 」

そして、三人は祖父母の家に戻り…風呂を入った後に朔茂は縁側で涼んでいた。
冷蔵庫から、冷えたラムネを飲みながら波の音を聴いていた。
そこに、茲音がやって来た。

「お隣良い?茂兄ぃ?」
ニカッと笑顔で、同じく冷えたラムネを開けて飲んだ。
「ぷはぁ~美味しいね?」
『夏海は寝たのか?』
「うん、さっきトイレ行ってから寝るって言ってたよ!」
『そうか…。』
朔茂は、少し穏やかな顔をしていた。

「し、茂兄ぃさ……。」
茲音は、何時もと違う雰囲気で聞いてきた。
「彼女…もう、いるの?」
朔茂は、急な質問にラムネを吹き出した。
『な、何だ急に!まぁ…居ないがな。』
茲音は、その朔茂を見て笑った。
「アハハハ~ごめんね?私達…もう18だしさ、茂兄ぃは何かアクションしているのかなっ?と思ってさ?」
『まぁ…その内にはな?』
急に…ガラガラと引戸が開く音がした。

「えっ!?何?」
『玄関か?誰か開けたのか?』
朔茂は、気になり玄関に向かった。
「待ってよ!茂兄ぃ!」

見ると、玄関は開いていた。

すると、玄関に祖父母もやって来た。

「朔茂、誰か来たのか?」

『いや、俺が見に来た時には誰も居なかった。』

朔茂は、何の気無しに辺りを見渡すと。

『……無い。』

よく見ると、靴の数が足りない。

『夏海の靴が無い…。』
茲音は、急いで夏海が寝る部屋を見に行った。
勢いよく戸を開けた。
「い…いない!」
『いったい…何処に。まさか、さっきのが気になって海に。』
祖父は、驚いた顔をした。
「朔茂…夏海は海で、何を気になったんだ?」
祖父は、少し汗を滴ながら朔茂に聞いてきた。

『縁日行った帰りに、俺は灯台の光を見ながら海沿いを歩いていたら夏海が急に波止場近くの海がユラユラしてるって…。』
その事を聞いた瞬間…祖父は目玉が飛び出る勢いで言った。
「いかんっ!それは…それは……見てはいけないものだっ!朔茂っ!説明は後だ!急いで波止場に行けっ!手遅れになるぞっ!」
普段温厚な祖父からは、思えない程だったので…それだけ夏海の身に危険が迫ってることを物語っている。

朔茂は、聞いたら直ぐにスニーカーを履いて飛び出した。
「あぁっ!私も行くよぉっ!」
茲音も、飛び出した。
その様子を見た、祖父は泣いていた。
「ワシが…早く言っておけば…ワシのせいだ。そういえば朔茂は、灯台の話を…。」

そして、波止場を目指す二人。

『夏海ぃっ!』
「夏海~!」
静かに、星空の下で照らされているが暗い海沿いの道。
必死に走るが、夏海は見当たら無い。
「茂兄ぃ!あそこ!夏海じゃない?」
茲音が、指を指す先…波止場の灯台の下に夏海はいた。
『なぁっ!夏海!』
朔茂は、叫んだ!
だが、それと同時に…夏海は暗い深淵の海に身を投げた。

その時、夏海の表情が見えた。
その瞳は、後悔を現しているようだった。
ジャブゥンっ!と波の中で、まるで池に石を投げ入れたかのような音がした。
「な、夏海ぃっ!」
『茲音っ!誰か、呼んできてくれ!』
「え!?茂兄ぃ!でも夏海を早く助けなきゃ!」
と言った瞬間…朔茂は波止場より暗い深淵へ飛んでいた。
「茂兄ぃっ!」
ザバァッン!
『ぷはぁっ!ハァ…ハァハァ夏海っ!!』
ザブザブと探すと…夏海を見つけた!
『なっ夏海っ!』
呼吸をするのもままら無い程、溺れていた夏海を抱き抱えた朔茂。

『大丈夫だ…後もう少しだからな。』
波止場まで、もう少しだった。

「おっ!あそこか!?」
「はい!お願いです!兄と妹を!」
「ユウヤ!俺は、浮き輪取ってくるから頼んだぞぉっ!」
それは、縁日のたこ焼き屋の青年二人だった!
「おいっ!あんたっ!手を出せっ!」
だが…その時、朔茂は自身の脚に違和感を感じた。
『ぷっ…うっくわぁ、いや妹を頼む…早くしてくれぇっ!』
朔茂は、滑りながらも波止場に付いた貝類を掴みながら懇願した。
「……くっ、任されたぁっ!」
青年は、夏海を引き上げた。
夏海は、中学生とは言え1人で持ち上げられたのは青年の怪力によるものだ。
そして、茲音が引き上げた夏海を寝かせ水を吐かせた。
「かぁっかほけほ…。」
口より、黒いものが吐き出された。
「(こ、これは?)」
『(夏海…助かって、良かった……。)』
安心したのも束の間…朔茂の脚が海底に向けて引き摺り込まれていく。
『あっ!ああ、ぷっくはぁ!』
必死に抵抗する朔茂。
水面より耳が下に浸かった際に、声が聞こえてきた。

「見捨てないで…波に浚われた私を見捨てないで…あなたは手を差し出してくれればいいから…ミステナイデミステナイデワタシヲミステナイデミステナイデワタシヲミステナイデミステナイデミステナイデっ!」
その声は、海水より耳に入ってきて…朔茂を苦しめる。
最初は脚だったが、徐々に掴んでくるヶ所がまるで朔茂を登るように伝わっていく。

『うっ、はぁわぁっ!ぷっ……。』
朔茂は、水面の下に沈んだ!
「おいっ!お兄さんっ!ちっ!クロの奴まだかよ!? 」
と一瞬、青年が一瞬眼を離した。
どんどん、海底に引き摺り困れる朔茂。
『(あっ!ぷぐうわぁっ!…駄目だ、俺もう死ぬだろう…。)』
その顔を見てニタニタする人ならざるものは、朔茂に追い討ちをかけるように首を締めた。
『(がぁっはぁ……すまない…茲音、夏海。)』
ザブゥンっ!
水の中でも、飛び込んだ音が聞こえてきた。
『(もう…俺は。)』
海の中から、見えた灯台の光に思わず手を伸ばした。
『(はは……届くわけ無いか!?)』
そして、人ならざるものは薄れいでいく朔茂を見た。

「アナタハミステナイミステナイカラカワイソウニィ~。」
それは、ニンマリと青白い顔を朔茂に見せつけた。
「エイエンニアナタハクラヤミノナカ…。」

朔茂が伸ばした手も意識が薄れた為に、下がって行こうとした。

だがっ!
その手は、掴まれた!
「(諦めないでぇっ!茂兄ぃ!)」
その手は、茲音だった。
「ナッコムスメガァッ!」
人ならざるものは、発狂し掴んでいた朔茂を離した。
茲音は、その隙に朔茂を掴み海面に出た。
「ぷはぁっ!」
水の底より、人ならざるものもユラユラとゆっくりと追ってきた。
「は、早く!茂兄ぃを引き上げて!」
青年達は、浮き輪を茲音に投げた。
「わかった!クロ引き上げるぞ!」
「おうっ!よいしょっとっ!」
二人で、やっと持ち上がったが朔茂は疲弊仕切っていた。
『…茲音は……茲音を……。』
朔茂は、意識を薄れながらも茲音の名前を呼んだ。
「茲音ちゃん!浮き輪に掴んでな!引き上げるからよ!」
「うん!お願っ……。」
その光景は、そこに居た者達の瞳に焼き付くように見えた。

浮き輪に掴んだ、茲音にまるで鉄砲水のような波が茲音を襲い。
そのまま、茲音は波止場の媚びりついた貝に頭を激突し…暗い水面を一瞬赤く染めた。
そして、暗い海は嘲笑うかのように直ぐに彼女は波に呑まれてしまった。
『は…離せ、茲音が…茲音を…俺は!』
「む、無理だ!あんたまで、死ぬぞ!」
『お願いだから…離してくれ……お願いだから。』
波は、静かになったが海面には茲音の姿は見つからなかった。

その後、地元の漁師達が茲音の捜索を手伝ってくれて…無事見つかった。

だが…それは、変わり果てた姿だった。

顔は、貝に切り裂かれたのだろう…ズタズタになり表情は苦しんだ表情をして息をしていなかった。

朔茂は、冷たくなった茲音の手を握った。
『ごめん…俺が……俺がもっとしっかりしていれば…。』
泣きわめく朔茂。
「お姉ちゃん…夏海のせいで、ごめんなさい…ごめんなさい、うわぁぁぁ~。」
泣き叫ぶ夏海。
その時、海から声が聞こえてきた。

「ミステナイデ…ミステナイデ…。」
聞いたことがある声だった。
『茲音なのか?』
この時、夏海も声がする方を向いた。
だが、そこに居たのは人ならざるものだった。
周りの皆は、朔茂が海に入って行くのに気づいてない。
「茂兄ぃっ!それは、茲音お姉ちゃんじゃないよ!戻ってぇっ!」
だが、夏海の心の叫びも朔茂には届かない。
「ミステナイデ…ミステナイデ…茂兄ぃ。」
人ならざる者は、ニタニタと笑みを浮かべ朔茂を黄泉へと手招きしている。
『ごめんな…茲音……守ってやれなくて。』
朔茂は、どんどん海の中へ入水していく。
夏海は、朔茂を止めようとするが身体が動かない。
「茂兄ぃ…私を1人にしないでよ!」
そして、人ならざる者の目の前まで入水した時っ!

「戻って来て!茂兄ぃっ!」
正面からでは無く、背後から聞こえた。
『……茲音?』
朔茂は、振り返る。
そこには、息を吹き替えした茲音の姿があったのだ!

「ミステナイデ……ワタシヲミステナイデミステナイデってぇっ!」
ちょうど、朝陽が海を照らして海面の色が変わった。
「カナラズカナラズ…オマエモっ!」
人ならざるものは、朝陽により消え去った。

朔茂は、身体の自由が戻り浜辺に戻った。
『お帰り、茂兄ぃ。』
「馬鹿野郎…それは、俺の台詞だ。」
「お姉ちゃん!良かったっ!良かったっ!」
夏海は、泣き叫んだ。
そして、茲音は入院する事になった。

『こんなに、ボロボロにすまない…。』
茲音は、顔に大城な傷ができ包帯を巻いていた。
「もう、茂兄ぃもう止めてよ!だけど、お嫁さんには無理かな。」
『その時は、俺が守ってやるからずっとな!』
少し恥ずかしそうに茂兄ぃは、言った。
「ぷっアハハハ!その時は、お願いね?」
『わ、笑うなよ!』
「てへっ!?」

そして、また夜…また再びあの海沿いを通る者達が居た。

「あれ?今彼処で、何かユラユラと動いて無かった?」
だが、相変わらず波止場に波が寄せて灯台が辺りを照らしてるのみ。

「え?どこどこ?どこ灯台が光ってるくらいじゃん?」
「え?灯台?」

後から、祖父からの聞いた。

彼処の海辺では、夜に生きている者を海に引きずり込む人ならざる者がいるらしく存在を認知した者を海に引きずり込むらしい。

既に光らない灯台の光と陽炎のようにユラユラと揺らぐ波が誘うらしい。
己を認知した人間のみを……。

コレからも、また。

「ミステナイデ…ワタシヲミステナイデ。」

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自炊 投稿者:影野ゾウ

「自炊」という行為をご存知だろうか。

本や漫画を裁断してスキャンし、データに変換してクラウド上で管理することだ。
これだと本が日に焼けてしまう事も、引っ越しの際に思いダンボールを運んでもらう事もなくなる。
元々電子書籍は懐疑派だったのだが、ボクの家の漫画専用の本棚にも限度がある。
この自炊という保管方法を耳にし私は早速自炊専用のスキャナを購入し自炊に取り掛かった。
 本の背表紙を裁断しスキャン。さすが専用のスキャナだけあり普通のコピー機とは比べ物にならない速度で本が取り込まれていく。1冊5分もあれば完了。どこでも読むことが出来る。
 
 意気揚々とスキャンを重ねていきある本をスキャンしている際、スキャナが強制終了した。
連続使用していると時たまそうなってしまうので気にせず再起動したが、またすぐに起動を表す青いボタンが消滅し、作業が中断してしまった。
 3度目の強制終了の時に気付いた。シャットダウンされる前、最後に取り込まれたページがなぜか真っ黒に表示されている。
 もしやと思い件のページを取り除いたら無事にスキャンが完了したのだがその後スキャナはうんともすんとも言わなくなってしまった。

 今取り込んだ本は漫画ではなく、百物語をテーマにした人気シリーズの文庫本の最終巻だった。
 
 後日スキャナをメーカーに修理に出したのだが「問題なし」としてそのまま戻ってきた。
その後は無事に起動でき大小さまざまな本を自炊したがこのような不具合を起こしたのは後にも先にもこの本だけだった。
 件の真っ黒になったページは、お化け屋敷の搬入の際なぜか人形が一体だけ毎回余るという話。特にその本のメインの話という訳でもなくどちらかと言えば繋ぎのような話だった。

 私のパソコンには今、1話欠けた状態の百物語の本が保存されている。

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怖いというか不思議体験 投稿者:あなたが思うより剣豪です

中学生の頃、近くの浜辺で友達数人と花火をして遊んでいました。

だいぶ暗くなったので帰りの方向が同じ友人1人とバスに乗って帰りました。

地方の田舎な事もあり灯りも少ない山道のバス停で降り後は歩きで帰路につくのですが、いかんせん暗く静かで人気がない場所なので、共に帰っている友人が怖がりなことを理由に何処かのタイミングで少し驚かそうと思いつきました。

少し歩いてから横断歩道で信号待ちをしている間、向かい側に塾の帰り(暗くはあったが時間的には夕方と夜の間くらいだったのでそう思った)か小学生くらいの女児がいたので友人に「聞いた話だけど幽霊って割とあんな風にハッキリ見えるらしいよ」とイタズラで言ってみましたがあんまり思ってたような反応は返ってきませんでした
その直後に信号が変わり、向こう側の女の子がトコトコとこっちに来て
「ねぇどうしてわかったの?」
と話しかけてきました。

ずっとこちらを見ていたようですが、その場では僕は無視してそのまま明るい場所についてから友人にこの事を聴いても何も答えず、その後再度聞き直しても覚えていないの一点張り。

10年近く立った後でもそれは変わりません。
覚えているのは僕だけかもしれませんし、僕のこの体験自体勘違いだったのかも知れないです。
しかしハッキリと覚えているので何か不思議だなぁ思っています。

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お地蔵さんの幸福の代償 投稿者:Mari

俺の通っていた小学校の通学路には、三体のお地蔵さんが祀られていた。

 変な感じはまったくしないし、むしろ、かわいらしいお地蔵さんだった。
だが、そのお地蔵さんに手を合わせると、とんでもなく不幸になるという伝承があった。

「あのお地蔵さんには、近寄らないようにしてくださいね。お参りしている最中に、事故にあって亡くなった人もいますから」
 小学生になったばかりのときに、担任の先生にそう言われたものだから、俺たち生徒にとって、お地蔵さん=恐怖の対象、にすっかりなってしまった。

 というわけで、大半の生徒はお地蔵さんを恐れ続けながら学校に通っていたんだが、小学五年生のときだったかな。おとなしい、仮に涼子っていう女子がいたんだが、突然、とんでもないことを言い出したんだ。
「私、あのお地蔵さんに手を合わせてくる」
 もちろん皆、必死になって止めたけど、涼子はどうしてもやるって言って聞かない。
 そして、実際に手を合わせたそうなんだ。涼子に不幸が訪れると、誰もが思ったよ。

 ところが、涼子は幸せになったんだ。なんでも、涼子は母親に殴る蹴るの暴力や、ご飯を作ってもらえない、いわゆる虐待を受けていたんだと。
 だから、これ以上に不幸になることはないと思って、やけになってお地蔵さんに手を合わせてみたらしい。
 すると、母親は改心。それまでと打って変わって、やさしい母親になったとのことだった。

 それでも、相変わらずほかの皆は、お地蔵さんのことを恐れていたよ。だって、涼子の幸せのなり方も、なんだかひねくれているじゃないか。
 ただ、涼子は幸せなままで小学校を卒業したみたいで、卒業文集には、『私はお母さんのような、やさしい母親になることが夢です』って書いてあった。

 俺は涼子とは中学校は違ったから、その後の涼子のことを知ったのは、二十歳を回ってからの、ニュースでだった。
 子どもを虐待死させたシングルマザーとして、涼子が報道されていたんだよ。もう、地元の連中は大騒ぎ。やっぱり、お地蔵さんの伝承は、本物だったんだ、ってな。

 思うに、涼子は、お地蔵さんに“不幸の後回し”をされてしまったんじゃないだろうか?
 涼子が幸せな子ども時代を過ごせた代償に、大人になった涼子と、その子どもは不幸になる運命になってしまったんじゃないか……そんな気がしてならないんだ。
 今では、小学校自体が廃校になった。お地蔵さんが、どうなったかは知らない。

 ……これが俺の鉄板の“怖い話”なんだが、あまりにも話ができすぎていて、なかなか信じてもらえないんだよな。
 でも、すべて実際にあった話なんだ。まあ、涼子にお地蔵さんに手を合わせることを俺がけしかけたのと、涼子の子どもの父親が俺だということは、言わないで話しているんだけど、それぐらいの嘘はいいよな?

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客観的な心霊体験 投稿者:影野ゾウ

一回客観的に怪談の体験をした人を見たことがある。

友人の家に泊まりに行った時、友人の姉が僕らが遊んでるリビングで電話していたのだが急に
「ギャアー!!」とケータイを投げ出し、泣き出した事があった。
何があったか聞いた所、
女友達と電話していたら急に電波が悪くなったらしい。
「もしもし?聞こえる?」
と聞いた所、全然知らないおじさんの声で

「聞こえてるよ」

と返され、怖くなって泣いたそうだ。

僕らは直接そのおじさんの声を聞いたわけではなかったが、弟の友人である僕らがいる所でウソの為に泣くとは思えず、その日はその後に見ようとしてた呪いのビデオを見るのをやめた。

という話を怪談話に使おうとディテールの確認の為、オーストラリアに引っ越してしまった件の友人に連絡して細部の確認をした。
友人はパーティ中だったのにもかかわらず当時の話を思い出して詳細に話してくれた。そのおかげでこの話が出来た。

「ごめんな、楽しんでるところ、色々思い出してくれて」
「何の話?」

「パーティ中なんやろ?後ろザワザワしてるやん」
「、、、オレ今ビーチで1人やで」

ギャー!とは叫ばなかったが僕らはすぐに電話を切った

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「義妹」 投稿者:マシンガンジョー

「私の妹二人は、ある時期を境にいなくなってしまいました」

鹿間さんという女性の方から聞いた家にまつわる話をする。

その女性が、まだ幼い頃に自分には妹が二人いたと話す。
名前は不思議に覚えてはいないのでここでは仮に、花と夢とする。
顔が三人ともそっくりで見た目からは誰が誰かわからないほどだった。

ある日、父親と母親に和室に呼び出される。
「あなたたちは気づいていると思うけど体を共有している」
つまりは、体を共有しているから一人が怪我をすると他の二人も同じ場所を怪我してしまう。
そういった体なんだと話しつつ、ある儀式をするという。

夜半、部屋の中で父母が何かまじないめいたことを一心不乱に唱えながらそれを黙って聞いているが、
鹿間さん以外の妹が苦しみ出す。
胸をおさえて、悶絶する。
慌てているとやがていつの間にか儀式は終わる。
ふと見ると部屋の中には自分しかいなくなっており、それぞれの座布団の上には乾いたへその緒がひとつずつある。

それからのことはよく覚えていないというが、
叔母の元にあずけられ育ったが、
大人になり聞いた話によればおまえの父親と母親は子供が長らく生まれなかったが、
やっと私を授かり、子を得たものの体が弱く死んだのだという。

私は二度目の子供なのだというが、出生のことはよくわからない。
只、おまえには姉妹などいない。
そう叔母からは聞かされ、へその緒と口にした瞬間、叔母の顔が険しくなり、
「そんなおぞましいことは言わんでくれ」と言われてしまう。
あの座布団の上のへその緒はまるでへその緒が人間に変わったかのような、そんな疑念を孕みつつ今も鹿間さんの中にあるのだというが、
蟲毒という中国の呪いの方法がある。それに近い何かを感じたのは否めない。

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