裕福ないじめっ子は、成功する? 投稿者:Mari

知人の、仮にNから聞いた、とある小学校の風習です。

 その小学校には、“裕福な生徒が貧乏な生徒のことをいじめたら、裕福な生徒は将来的にも大成功する”という風習があったそうです。過去形なのは、今はないからです。

 Nから、その小学校出身の有名人に誰がいるかを聞いたのですが、何人か、とんでもない大人物もいて、驚かされました。
 ということは、その大人物は小学校時代はいじめっ子だったというわけ……いや、あまり邪推するのはいけませんね。

 その小学校は高級住宅街にあるのですが、それでも、当然、貧富の差というものは存在します。
 ただでさえ、貧乏だといじめの対象になりやすいですよね。そんな風習があったせいで、貧乏な家庭の生徒は、“いじめられて当たり前の存在”として扱われていたそうです。
 先生をはじめとした大人たちも、その風習の内容を信じていて、いじめを見て見ぬ振りするどころか、積極的にいじめに加わっていたとか……最低な話ですよね。

 そんなひどい風習がなくなったきっかけの出来事は、Nの代に起きました。
 Nと同じ学校に、地元の名士と言っても過言ではないほど、先祖代々裕福な家庭の男子生徒がいて、仮にKとします。
 Kもまた、ものすごくいじめっ子でした。Kのせいで不登校になった生徒が、何人もいたんだとか。

 高学年で、NはKと同じクラスになり、担任が、道徳の授業か何かで、差別されて育ったけれど、将来的には大成功したという偉人の話をしたときのことです。
「僕もそんな有名人になってみせます!!」
「あなたなら、きっとなれるわ」
 Kは担任に気に入られていたそうなので、そんなことを言って、絶賛されたんだとか。まさに茶番ですよね。

 そして、Kは本当に、有名人になりました。おまけに、中学生という若いうちに、です。
 ……Kは、犯罪者になってしまったんです。事件が特定されるといけないので、ニュースになるほどのことをしてしまった、とだけ言っておきます。

 Kの事件以来、いじめっ子がもてはやされるような風習があるのはおかしい、という流れにようやくなったそうです。Nいわく、今では、いじめがなくて平和だと、地域でも評判の小学校なんだとか。
 でも、今はその小学校にいじめがないだなんて、信じられますか? 風習も人の悪意も、そんなに簡単になくなるものではありませんよね……。

カテゴリー: みんなで創る百物語

笑い声が苦手な友人 投稿者:林きつね

友人と酒を飲んでた時に聞いた話なんですけど。
飲み始めて2時間ぐらいたって、お互い結構酔っ払って、普段言わないような愚痴とか言ったり、それぐらいになってる時にその友人が言うんですよ。

「俺な、実は人の笑い声がちょっと苦手やねん」

また珍しいもんが苦手やなと、私も気になって理由を聞いて、それで教えてくれた話です。

その友人、3つ下の弟がいまして。小さい頃は夏になるとしばらくの間おばあちゃんの家に預けられてたんですね。
おばあちゃんも一人暮しだから、友人兄弟が来るのを毎年凄い喜んで、ちょっといいお菓子だったりがいっぱい貰えるんで、友人も毎年結構楽しみだったそうです。

友人が小学校二年生の時、その年も夏になって、弟と一緒におばあちゃん家に行ってゆっくり過ごしてたんですけど、弟の方は退屈みたいで結構一人でうろちょろと遊びに行ってたんです。
ある日、押し入れかどっかから見つけてきたんでしょうが、弟がおもちゃを一個持ってきたんですね。
それが、笑い袋だったんです。

小さい袋で、真ん中を押すと笑い声が出るっていうあのおもちゃ。
それでね、ずっと遊んでるんです。
『アハハハハ』『アハハハハ』
って鳴らしながら。

どうもそれが、小学校二年生の友人にとっては凄い気持ち悪かったそうなんですよ。
近くでその笑い袋で遊んでたら「やめろ」って言うぐらいには。
それでも弟はそれ気に入ってますから、全然やめないんですね。
暇があったらずっと遊んでる。
おばあちゃんの家から帰る時も変わらずずっとそれで遊んでるから、おばあちゃんも「持って帰っていいよ」って言ってくれて、その笑い袋を弟は家に持ち帰ったんですよ。

弟、家に帰ってもずっと笑い袋で遊んでて『アハハハハ』『アハハハハ』
友人が何度やめろと言ってもやめない。
ずっと弟は遊んでて、その度に気持ちの悪い笑い声が耳に入る。とうとう友人怒って、弟の手から笑い袋をひったくって思いっきり壁に叩きつけたんですよ。
ガンッ!って音がして、そのまま音が鳴らなくなって。

弟にしてみれば、いきなりお兄ちゃんにおもちゃひったくられて壊されたもんだからワンワン泣いて、親もすっとんできて友人に謝らせたんですけどそれでも弟は泣き止まないので、駄目元で、『電池交換して動かなかったら諦めてね』ってことでなんとか落ち着かせたそうなんです。

それで友人のお母さんが袋から中に入ってる機械を取り出して電池が入ってるところ見たら、電池が入ってない。空っぽだったそうです。

電池の入ってない笑い袋から嫌な笑い声がずっと聞こえてた。
まあそりゃ確かに笑い声が苦手になっても仕方がないなと私はその話を聞いて思いました。
それで友人、まだ話を続けるんですよね。

「俺、あの時の笑い声ほんまに気色悪くてな、今でも頭の中で覚えてるぐらいやねん。ほんでな、何年か前にテレビ見てたらな、芸人が笑い袋使ってなんかやっとってん。その声な、俺の記憶の中にある笑い声と全然ちゃうかってん」

まあ笑い袋って言っても一種類だけじゃないやろうしという私に、違うと友人。
そんな次元じゃないと。なんというか根本から違ったと。
どういうこと? と聞き返す私に、友人ゆっくりこう返しました。

「あの時鳴ってた笑い声な、あれおもちゃじゃなくて、ほんまの人間の笑い声やったと思うねん」

カテゴリー: みんなで創る百物語

林道 投稿者:おのっち

知り合いから聞いた話ですが、山や川の上流など人目につきにくい場所は自殺者がよく出るそうです。

実際知り合いの家近くの水力発電所で、水死体が出たとニュースになったことも。

これは、その話を聞いた後近所であった話です。

朝いつものように車で出勤したのですが、近くの林道に続く坂に一台の軽バンが止まってました。

その場所は、近くの川で釣りをする人たちがよく停めているので最初はスルーしたのですが、夕方帰路についた時もなぜか停まっていたのです。
空き巣か何かの下見かと疑いつつも、車内を除くのもあれなのでその日は無視しました。

そして翌日、軽バンを囲む警官の姿が。

遺書と共に車内で自殺していたそうで、同じ場所で20年前にもあったそうです。やはり自然は恐ろしい。

カテゴリー: みんなで創る百物語

樹海の祟り 投稿者:東京のカレー屋

20年以上も前の話です。

当時18歳だった自分は関西に住んでおり、よく東京に遊びに来てたのですがやはりお金のない10代、在来線を乗り継いで少しでも旅費を安くしたりしてました。そんな感じでいつものように東京に遊びに来ていた際の帰り、友人が車で関西に行くというので乗せてってあげるよと言ってくれ喜んでお言葉に甘えました。

東京から山梨を通り長野、愛知を通り関西に向かっていたのですがその時にかの有名な青木ヶ原樹海の標識を見つけました。

『おお、これあの有名な樹海やん!ちょっと寄ってこ!』
と深夜にも関わらず樹海探索を始めてしまう怖いもの知らずな2人。

とはいえさすがに深入りはせず帰る道もわかるようにと車のエンジンは掛けっぱなしで進みました。
軽く50Mほど入った程度で引き返してきたのですがここはもう罰当たり度マックスな10代男子、『ここらの樹って人の養分吸ったりして育ってるんじゃね?枝とか地元の友達の土産にするわ(笑)』とか面白半分に落ちてる枝を拾って行きました。
そんなこんなで地元関西に到着、送ってくれた友人に礼を言い帰路へ。

自分は地元にバイク仲間がおり、当時バイクを手に入れたばかりの自分たちはよく朝方にいろんなところをバイクで遊んでいました。

ちょうどお土産(枝)を渡そうと持ってきており、友達の後部座席のベルトに枝を挟んでやりました。

友達は『なにこれ?枝?』と不思議がり自分は『おう、それ青木ヶ原樹海の枝やで(笑)』というと友人は『嘘やろ!?おまえなんてもん付けんねん!!』と若干ビビりつつも意地を張り枝を取ろうとはしませんでした。

そんなこんなでいつものように道路をバイクを走らせ遊んでいたのですがその日の道路、途中から車線が増える為そのまま進むとその直進先が、広がった反対車線になってしまうので若干左に移動しなくてはいけません。
まあなんてことはないので自分は普通に左に少し移動しつつ、ふと横を見ると何故か友人が左に寄りません。

進行方向を変えようとしたと思うのですが変えきれず、ハンドルがフラフラっとなったかと思うと直後、友人はそのまま中央分離帯に正面から突っ込んでしまう形となりました。

横で並走しながら見ていたのでよく覚えていますが前につんのめる形で吹っ飛ぶバイク、ハンドル握ったままの姿勢で前向きに綺麗に1回転しそのまま中央分離帯の茂みにダイブする友人。

幸いにも分離帯の茂みがクッションとなり切り傷のみで友人もバイクも無事でした。

『何しとん?大丈夫か??』と問うと友人は『わからん、わからん、わからん』と明らかに混乱している様子。
とはいえ大事に至らなかったからか当時は
『おお、早速樹海の呪いきたやん!!(笑)』と笑いましたが今考えるとガチのやつすぎて笑えませんよね。

悪戯半分で樹海に落ちている物を持って帰るのはやめましょう。

ちなみにその枝は事故の際に取れてしまったのか茂みと見分けがつかなくなり回収不可能となりました。

余談ではありますが樹海探索から車に戻った際、1台のトラックが止まっており運ちゃんが心配そうな顔でこちらを見ていました。
確かに深夜にエンジンかけっぱなしの無人の車が樹海脇に止まっていたらタダごとじゃないと思うわなー、と。

カテゴリー: みんなで創る百物語

地獄からのお迎え 投稿者:クレイドール

“これは私の遠い親戚の話です。

時代は昭和20年代、場所は滋賀県の近江八幡の集落に遠い親戚のAさんがいました。
Aさんは代々続く近江商人の家に生まれた人でした。

しかしAさんは商売そっちのけで、朝から晩まで裸足で村を徘徊していて、
お金を強請ったりしては村の人たちから嫌悪されてました。

そのAさんが危篤になり、祖父もAさんの屋敷に訪れました。

祖父もAさんには迷惑していたので、心配からではなく、どんな死に方するか一目見てやるか。
と、半ば興味本位でAさんの最後を見に行ったのでした。

大広間の床でうなされているAさん。
苦しそうにしているのに村のお医者さんは見て見ぬふりをしていました。

その家のおばあさんが、一言「来よったな」と呟きました。

するとAさんが「鬼が来よったー、火の車やー、暑い暑い」と七転八倒していました。
祖父は、おばあさんが息子であるAさんに「ギシギシ、ギシギシ」と耳打ちするように呟いているのを側から見ていました。

そのおばあさんの呟く様子に薄気味悪さを覚えたと言います。
まるで息子を苦しめているかのようにしていたそうです。

Aさんは目を開けたまま亡くなってしまいました。
最後にAさんは助けてくれー、そう絶叫していたそうです。

この地方には遠い昔から、悪いことをした人間には、地獄から鬼が火の車で迎えに来る、そう言い伝えがあるそうです。

祖父は、あの婆さん自分の息子を殺しよったんや。そう私の母に話しました。
おばあさんが呟いていたのは、地獄の火の車の軋む音だったのかもしれません。

カテゴリー: みんなで創る百物語

深夜の病院 投稿者:ぽんぬ

プログラマーからインフラエンジニアに職種を変えたばかりの頃、1年くらい医者が利用するパソコンのセットアップをしていました。
日中帯は患者がいたり診察室に入れないので作業は深夜がメインでした。

病院によってパソコンを設置する場所は様々で診察室だったり手術室なんですが、大きな組織となると地下にITの部署を構えてることも。
日本全国の病院で作業があり、急遽長野県まで一人で出張することになりました。
当日は大雨でタクシーに乗って病院まで行きました。
担当者に挨拶して名刺交換をし時間まで待機することになり、休憩してたんですけどどうにも匂いは慣れないしひんやりとしてて居心地も悪く早く終わらせたいなと思ってました。
担当者から作業開始許可が出たので作業場所へ案内してもらいました。

場所は地下で霊安室の隣でした。

内心、嫌だなぁ…と思いながらパソコンをダンボールから出してパソコンを指定のあった場所へ設置、電源やLANケーブルを繋いですぐ使えるようにしました。

人の死が日常的に起こる空間のため、奇妙な体験をしたという話もよく聞いていましたがどうせ作り話とか盛ってる程度に思ってました。
作業場所は地下でもちろん窓なんてなく空気も悪い。

ですが、カーテンが揺れてることに気づきました。
エアコンかな?と思いましたが深夜ということもありエアコンは動いていませんでした。
風の流れと自分を納得させ作業に集中してました。

途中、「あー疲れた!」とか「仕事終わったら何か食べて帰ろう!」とか独り言よりかは多少大きな声を出してました。
客先とか仕事中とか非常識だと思うかもしれません。

けど見えちゃったんです。
入口に白い服を来た人がいるんです。
もちろん担当者ではありません。
ずっと視線を感じながら、どこか行かないかな、こっち来ないといいなと思ってました。

すると作業場の内線が鳴り響きました。
担当者かな?用はないけど呼び出そうと思って受話器に耳をあてると…
「いつ帰るの?」
すぐに受話器を戻しました。
受話器から聞こえたような真後ろから聞こえたような。
今振り向いたらダメということは本能的にわかりました。
交換した名刺を取り出し担当者が待機している部署に携帯電話からかけました。
何も知らない担当者から「どうしました?」と聞かれたので「不明点があるのですぐ来てください」と伝えました。

数分して担当者が到着し、冗談ぽく「失礼を承知でお聞きしますが…」とあったことを聞くと、納得したような顔をして今までも同じようなことがあったと話してくれました。
状況を理解してくれ同じ部屋で待機してくれることになりました。

その後は何事もなく作業は終わりました。
最終的にその仕事は辞めました。
業界は変わっていませんが今は他の仕事をしています。

カテゴリー: みんなで創る百物語

掴む手 投稿者:らぶ

20年ほど前に父が体験した話です。

当時父は群馬県にあるゴルフ場に勤めていました。
そのゴルフ場はそもそも建設過程で変なことがあったり、これから書くこと以外にもおかしな事があったりと少し曰く付きの場所だったそうです。
しかし、一番言われていたのが事務所から離れた建物内の更衣室の噂でした。
普通にコースを回るお客さんの更衣室として使われているところですが、見回りをする同僚達が皆口を揃えておかしな物音を聞いた、人影を見たと言っており、あそこには何かいると言われていたそうです。
父は幽霊を信じていないわけではないのですが、自分は見てないから信じないというちょっと天邪鬼な面があり、ならば俺が見回りに行こうと見回りを買ってでたそうです。

夜になり、その更衣室に見回りに行きました。
電気をつけ、中を見回りました。特に何もありませんでした。ただの噂かと電気を消して全身鏡の前を通ったときでした。突然動けなくなって、寒さを感じたのと同時に、後ろに気配を感じたそうです。
先ほどまで電気がついていた事もあって目は慣れておらず、鏡で見る事ができるのは自分と後ろの真っ暗な空間だけでした。
必死に体を動かそうとしているときに鏡を見ているのも怖いので目を離しました。そのときでした。

がしり

誰かの手に肩を掴まれました。おかしい、見回りは一人、事務所からも遠いから誰もいるはずがない。すぐに鏡を確認したそうです。自分の後ろには・・・

先ほどと変わらず、暗闇しかありませんでした。
でも肩には手がありました。

父は理解したと同時に大声を上げて事務所まで逃げ帰り、上司に金輪際あそこの見回りには行かないと言い切ったそうです。

この話には後日談があって、父はどうしても同じように幽霊を見た人たちに確認したいことがあったそうで、数人を集めました。
何も言わずに紙とペンを渡して言ったそうです。ここに、幽霊の特徴を書いてくれと。
皆が書いてつきあわせると・・・

髪の長い女、赤い服、身長は高め・・・

全部の要素が一致していたそうです。

カテゴリー: みんなで創る百物語

黒い塊 投稿者:れお

これは私が20歳の頃に実際に体験した話です。

その日はやけに疲れていて、私はいつの間にか自分の部屋で眠ってしまっていました。
ふと、目が覚めると身体が動きません。
(金縛りだ…!)
生まれてはじめての体験に、少し心が踊りつつも、なんとも言えぬ恐怖を感じていました。

かろうじて動く目だけ動かして部屋の中に異変がないか確認していると、部屋の天井に異変を感じました。
豆電球でうっすらと明かりをつけていたはずのライトが勝手に消えているのです。
部屋の中が真っ暗なことに、ここで初めて気が付きました。
(電球が切れたかな?)
身体が動かず確かめることもできないので、そういうことにするしかありません。

そしてもう一つ、違和感があったのが天窓です。
そこからはいつも優しい月明かりが楽しめるのですが、その日は月明かりが一切入ってきていませんでした。
(どんなに天気が悪くても、うっすらと月明かりが入ってきていたのに…)
いつもと違う部屋の様子に、これは夢なのでは?という思いが頭をよぎります。

他におかしな箇所はないか目を動かすと、自分の身体の真上に黒い塊が浮かんでいることに気が付きました。
大きさは直径50cmほど、ほぼ正円に近い形をしています。
形よりも異様だったのがその黒の深さでした。
そこに本来あるはずの白い壁が、真っ黒な塊で見えなくなるくらい漆黒なのです。
暗い部屋の中でも、その黒さはさらに突出していました。

(この黒い塊はなんだろう?)
私はなぜか恐怖を感じることはなく、ただその黒い塊を見つめ続けていました。

すると突然、頭の中に祖父との思い出や祖父の葬式の様子が一気に浮かんできたのです。

(おじいちゃん、ごめんなさい…泣けなくて、ごめんなさい…!)
(会いたい、おじいちゃんに会いたい…!!)
頭の中に勝手に言葉が浮かび、涙が溢れてきました。
葬儀では出なかった涙が、今になって出てきたかのような泣きっぷりでした。
私は祖父が大好きだったあまりその死をうまく受け入れることができず、葬儀では涙が一滴も出なかったにも関わらず、今になってこんなに涙が溢れるなんて…。

懺悔にも似た独白が頭の中に溢れて止まらず、
そのまま気絶するかのように、私はまた眠りにつきました。

朝、目が覚めるとそこはいつもの部屋でした。
豆電球はついているし、天窓からは気持ちの良い朝日が降り注いでいます。
(アレは一体なんだったんだろう……?あ!そういえば…)
そこで初めて思い当たることがありました。
その日は、祖父の命日からちょうど49日目だったのです。

あの黒い塊は祖父の魂だったのでしょうか?
それとも、祖父になりすました何かだったのでしょうか…。

あれ以来、黒い塊を見ることはありませんでした。

カテゴリー: みんなで創る百物語

双子 投稿者:ナナシノナナシ

僕には双子の弟がいる。

弟は姿こそ僕には瓜二つだけど、僕が辛いときや楽しいときには一緒に悲しんだり笑ってくれるいい奴だ。

今日も学校のトイレで話していると友達がやって来てこう言った。

「よぉ!なにやってんだぁー?」
なにもくそもない。弟と話してるんだ。

そう言うと彼は「…そうか、じゃぁ…弟君によろしく…」そう歯切れ悪く言った。

なんだろう?そう思いながら弟に顔を向ける。

弟も僕と同じように疑問顔だ。

ふと弟の横を見ると友達と同じ顔の奴がいる。

なんだぁ…あいつも双子だったのかぁ…

カテゴリー: みんなで創る百物語

優喜怒悲に混ぜりて 投稿者:GSY-UcD

ちょうど、梅雨に入る前の季節だった。
高校二年生になった私は、部活も忙しく日が暮れる頃になるまで励んでいた。

『あぁ…疲れた。今日は、失敗しちゃったなぁ……はぁ。 』
溜め息をついた後に、先程コンビニで買った豆乳飲料をストローで飲む。
「確かにぃ~あれは、失敗だったね?だけど私は、助かったよニヒヒヒ。」
そう笑うのは、昔からの幼なじみの来瀬 衣子(くるせ いこ)で 私より愛嬌がありクラスでも部活でも人気がある。
『でもさぁ……。』
失敗を思い出し、落ち込む私。

「いやいや、誰にだってね?失敗は、しちゃうものだよ?私も、失敗するし…ね?」
「だから、明日頑張ろうよ?真那?」

私は、中尾美 真那(なかおみ まな)。
まさか、この日を境に思い出したくない恐怖と絶望を体験するとは思わなかった。

「何あれ?」
二人で、もう夕暮れで暗くい道を歩いていると近くの公園の砂場から音がしたのだ。
二人は、気になり公園の中を覗き見てみると砂場に長い髪で赤い服を着た1人の女の子が居た。
砂場に小さいスコップを刺して穴を掘っているようだ。

『(こんな…夕暮れに、危ないな。)』
「(だよね?念のため、お母さんは?って聞いてみようか?)」
真那と衣子は、1人でいる女の子が心配になり公園内に入って行った。
近寄ってみると、女の子は何か言いながら楽しそうに穴を掘っていた。

「おいっく!おいっく!おいっく!まぜてまぜておいしい。」
何かの番組で、やっている歌なのだろうか?
「もしもし?こんな…夕暮れで1人だと危ないよ?怪しい人も出てくるから、お家に帰った方が良いよ?」
衣子は、優しく横から女の子に話し掛けた。
「おいっく~おいっく~おいっく、まぜてまぜて~できるかな?」
女の子は、聞いていないようだった。
「あははは…悲しい。」
衣子は、無視されたことで落ち込んだ。
『ねぇ?1人なのかな?お母さんは?』
真那は、女の子の真正面から話し掛けた。

「うん、1人!いま、おいっくしてるの!お母さんは、お家だよ。」
『そうなんだ…じゃあ、危ないから帰った方が良いよ?良ければ、私達が一緒に帰るから。』
「……おねえちゃんたちはおいっくすき?」
『(おいっく…って何?)』
先程、言っていた言葉だが何かのテレビ番組の呪文だろうと考え付いた。
『うん、大好きだよ。』
真那は、笑顔で答えた。
それを見ていた衣子も、言葉の真意は謎だが女の子が好きなものを邪険に扱うのは良くないと思い頷いた。

「本当?うれしい、じゃあ…一緒にかえろう?」
女の子は、使っていたスコップを小さいバケツに仕舞って真那に寄り添って来た。
「手…繋いで?」
女の子は、小さい手を真那に差し伸べた。
そのキラキラした瞳に抗えなかった。
『良いよ。』
そう言い、その小さい手を掴んだ。
『(温かくて可愛い。)』
真那は、思わずニッコリした。

「じゃあ、私がバケツ持ってあげるから。」
衣子は、女の子のバケツを持ってあげようとバケツに手を掛けた。
「ありがとう!じゃあ…おねえちゃんも手を繋いでくれる?」
バケツを持っていた手が空いた為、そのまま衣子に真那と同じように手を差し伸べた。
「良いよ!」
衣子は、そのまま女の子の手を掴んだ。
「ありがとう!祥子ね?おねえちゃん居ないから嬉しいよ?」

女の子の名前は、祥子(さちこ)と言うようだ。
祥子は嬉しそうに年相応に、はしゃいでいた。

暗い住宅街の道…音が鳥の鳴き声さえも無くなり静かになってきた。
道の電柱には、不審者への注意換気や行方不明者多発による情報を求める貼り紙がされていた。

「おねえちゃん達は、好きな食べ物なぁに?」
祥子が無邪気に質問をしてきた。
『わ、私は…シチューかな?だけどね、ブロッコリーが入ってるのは苦手だけどね』
真那は、少しひきつりながら答えた。
「祥子も、シチュー好きなんだ!お母さんの作るシチューとても美味しいんだよ。」
祥子は、嬉しそうに答えた。
「だけど、おねえちゃん好き嫌いするなんていけないんだ!祥子は、ブロッコリー入っていても食べれるよ?」
『あ、アハは…すいません。』
「ぷくく…真那好き嫌いしちゃ駄目だよ?ニヒヒヒ。」
衣子に、凄く笑われた。
『衣子は、言わなくていいの!』
と三人仲良く話している内に住宅街の隅にある普通の一軒屋に着いた。

「ここが、祥子のお家だよ!おねえちゃん達もおいでよ!」
祥子に手を引っ張られる二人。
二人は、お互いを見て…祥子の家に少しお邪魔することにした。
「おかさぁん!祥子帰ってきたよぉ!」
祥子は、入り口のドアから声をかけるとドタドタと足音が聞こえてきてドアが開かれた。

「サッちゃん!?駄目じゃない!?夕暮れまでに帰って来なくちゃ! 」
祥子の母親は、とても若く見えたが今まで心配していたのか泣いていたようだ。
「もう!庭で遊んでるって言ったのに…居なくなっちゃって!誘拐されたかと思っちゃったよ!でも…良かった無事で。」
母親は、祥子を泣きながら抱き締めた。

「ごめんなさい、お母さん。祥子もうしないから。」
祥子も流石に反省したようだ。
『(帰ろっか?)』
「(うん。)」
二人は、この光景を見て帰ろうとした。

だが。

「貴女達が、祥子を送り届けてくれたのね?ありがとう…ありがとう。」
母親は、感謝を伝えた。
「いえいえ、大丈夫ですよ?お家に送り届けることができてこっちも良かったですから!」
衣子は、愛嬌を振る舞い答えた。
『そうですよ!では、私達はコレで!』
そう言い、衣子と一緒に真那は立ち去ろうとした。

……もう空は、真っ暗だった。
だが、真っ暗なのは空のせいでは無かった。

『はっ!ここは?』
真那は、気がつくと客室のような部屋の椅子に首と手足を固定されていた。
『えっ!私は、祥子ちゃんを送り届けて衣子と帰った筈……筈……筈なのに覚えてない。』
部屋の中には、他にはテーブルとCDプレイヤーがあるだけだった。
『私、誘拐された?衣子はっ!』
すると…ヒタリと足音が聞こえてきた。
『だ、誰!』
首や手足を固定されている為、後ろは見えない。
足音がまたヒタリと聞こえ、次第に自分の真後ろに気配を感じた。

『私をどうするの!衣子はぁっ!衣子は!どうしたの!』
吐息が聞こえたが、間も与えられずに目隠しをされた。
暫く放置された後にやがて、ドアが開く音がし、カチャカチャ音と足音が聞こえてきた。
コトっ…とどうやらテーブルの上に何か置いたようだ。

良い匂いが、漂ってきた。
嗅いだことがある匂いが。
置き終わると、そのものは真那の真後ろに周り目隠しを外した。

すると、目の前にはクリームシチューと食べるためのスプーンが置かれていた。
テーブルには、紙が置いてあった。

“”ブロッコリーも残さず食べなさい。これを食べたら貴女を解放します。””

そしてシチューを見るとブロッコリーは確かに入っていた。
真那の裏にいるものは、真那の両手を解放した。
だが、脚は固定されているので逃げられない。

『分かったわ…食べれば良いんでしょ!』
真那は、シチューにスプーンを入れてブロッコリーと一緒に口に入れた。
『お、美味しい!ブロッコリーってこんなに美味しかったけ?しかも、このシチューの美味しさは……。』
言葉を失う美味しさだった。
真那は、他の事を忘れてシチューを食べていた。
『美味しい美味しいっ!なんで、美味しいんだ!』
気がつくと食べ終えていた。
カチャっとCDプレイヤーから音がした。
ガガガと音がして、やがて再生を始めた。

「美味しい~シチューの作り方。」
聞いたことがある声だった。

「普通のシチューと、ほぼ一緒!」

「秘密は、これだよ!オリジナル!」

「だけど~アタリもハズレもあるから要注意! 」

「これを踏まえて、さぁ…作りましょ。」

ガー…ガガガ、CDが切り替えたような音を出した。

「やめて…やめてください。私、絶対に喋りませんから!」

泣きながら、救いを求める声が聞こえる。
真那は、この声の主を知っていた。

『え…衣子?』

と同時に、ギュイイーンとチェンソーの音が聞こえた。

「や、やめっやめガぁガアアアアアっ!」

それは、人間の声じゃ無かった。
真那は、衣子が何をされているのか容易に想像できてしまった。

「いっぎぃっ!ギギギギギっ!」

『や、やめて……やめてよ。衣子…衣子……を苦しめないでよ。』

やがて、チェンソーの音と衣子の断末魔の叫びは止まった。
カチャカチャと音と何かを取り出したような音がした。

「はぁい!これが…新鮮な脳だよ?」

「おいっく!おいっく!混ぜて~混ぜて~美味しい~おいっく!おいっく!美味しくできるかな?」

「そして、これを濾してシチューに加えるだけでまろやかになるんだよ?」

「ふふ……とても美味しそうにできそうだね?」

「じゃあ、実際に食べて貰おう!」

プツンとCDは、終わった。

真那は、ガチガチと歯が震えていた。
後ろにいた人物は、真那の耳元に口を寄せた。

「偉いね?ブロッコリー食べれたね…そんなに美味しかった?」
「お友達のおねえちゃんの脳ミソが入ったシチューは?」

この声の主は……。

「ねぇ?答えてよ?おねえちゃんニヒヒヒ?」
祥子だった。
「答えは、決まってるよね?現に器の中身空っぽだもの!美味しかったってことだよね?」
「美味しかったんだよね?美味しかったんだよね?美味しかったんだよね!」
祥子は、椅子の真上から覗くように問いかけてきた。

『い、嫌…何で?というよりは、何で衣子を殺したのよ! 』
祥子は、キョトンとしたが直ぐに答えた。
「何でって?貴女達が、おいっく好きって言ったからよニヒヒヒ。」
『おいっく…って何なのよ!』
真那は、質問したが……。

「なら、知った気で空返事するんじゃあ無いんだよ?私が、幼いからって適当にあしらってさぁ!」
「まさか?こんなことに、なると思わなかったのかな?ねぇ?おねえちゃん!」

『だからって何で衣子なのよ!私を殺せば良かったでしょ!』
真那は、泣き叫ぶ。
祥子は、それを見て笑いだした。

「アヒャアハハハ!何故って?友達を殺されて尚且つ友達を殺され絶望した奴の脳ミソを食べたいからさ。」
祥子は、ペロりと真那の耳朶を舐めた。

「だからね死んで…じゃあ、いただきます。」
『まっ!』

次の瞬間…真那の首より噴水のように血が流れた。

…………。

暫くして、翌日の公園。

「おい、知っています?また行方不明者が出たんですって?」
「今度は、女子高生二人らしいわよ?」
「怖いわね……。」
世間話をしている、奥様方達。

「おいっく!おいっく!」
「?なぁ、その……おいっくってなんだ!」
「え?これ?なんか…穴を掘ったりかき混ぜたりって意味らしいけど…兄ちゃんから聞いたんだけど……。」
昼時になり…とある家の食卓には、シチューが 並べられた。
母親と祥子が、それを食べる。

「美味しいわね…やっぱり寝かせた方が美味しいわね。」
「ありがとう…。 」
母親は、ニコニコと祥子に感謝する。
「いやいや、また食べたいときは言ってね。 」
「(ククク…おねえちゃん……貴女の無念や悲しみが更にコクを与えてくれたわ。)」
口元についたシチューをペロリと舐めとると満足した顔をした。

「(おねえちゃん…ブロッコリー食べれるようになったのは誉めるけど、いただきますとご馳走様って言えないのは命の恵みに失礼だよ。)」

場面は、戻り…。

「おいっく…てのは、差し上げますって意味らしいよ?」
「へぇ…差し上げるって、言ってもね?」
「ご馳走様……おねえちゃん達。」

この町には、行方不明者と時々脳の無い死体が見つかる事が多いようだ。

例え子供だろうと不審者では無いと安心せずに知らないことを肯定的にあしらってしまうのは止めた方がいい。
貴方達を見ている眼が、ただの食物としてしか見ていないかもしれないからだ。

その眼が、どのようにみているか私達には闇夜のように分からないのだから。

カテゴリー: みんなで創る百物語